2012年6月 2日放送 落合恵子さん(第1790回)
- 会場
- 沼津市民文化センター
- 講師
- 作家・クレヨンハウス主宰 落合恵子
講師紹介
1945年栃木県生まれ。執筆活動と並行して、
子どもの本の専門店クレヨンハウスなどを展開。
総合育児・保育雑誌「月刊クーヨン」や、
オーガニックマガジン「いいね」の発行人。
番組で紹介した本
「孤独の力を抱きしめて」
著者;落合恵子
(小学館・税込1,400円)
「ハグくまさん」
著者:ニコラス・オールドランド
訳:落合恵子
(クレヨンハウス・税込1,470円)
第1790回「ハグのとき」
「ハグ(抱きしめる)」という言葉は30年以上前にあるカウンセリングで知りました。
去年の3月11日から私たちはかつて経験したことのない、
個人的、社会的な喪失感の時代を迎えました。
私が主宰しているクレヨンハウスでも、個人としてやれることをやろうと、
若いスタッフと話し合いました。
そして、被災地の子どもたちの心をゆっくりと抱きしめる「ハグ」をしようと、
被災地に本を送ることになりました。
次の日から、段ボール箱に次々にたくさんの本を入れました。
若い人たちは早く送りたいと、気がはやっていましたが、私はブレーキをかけました。
被災地にすぐに必要なものは医薬品、飲み物、食べ物、衣類であり、
本は一番後でいいと伝えました。
震災から約1ヶ月経った4月、第1便が送られました。
プロジェクトの名前は「HUG&READ」です。
始まって今までに、約14万冊の本を届けることが出来ました。
クレヨンハウスの本ばかりではなく、全国の出版社や、
全国のクレヨンハウスを知る人たちから送られた本たちです。
たくさんの人たちの心の底からの想いです。
また、クレヨンハウスの中に置かれた段ボール製のポストには、
一筆箋に多くの人がメッセージを入れてくれました。
ある女性からは「今、この手紙を読んでくれているあなたへ。
伝えたいことがたった一つあります。
生きていてくれてありがとう」
近くのアメリカンスクールの子供たちからも
「I always with you (いつもあなたと一緒にいるよ)」
といったメッセージが寄せられました。
これらは言葉のハグです。
カナダに「ハグくまさん」という絵本があります。
『どんなものでもハグしてしまう平和なハグくまさん。
ある日、森に入ってきて大切な森の大きな木を斧で切り落そうとした人間を見つけます。
ハグくまさんは、初めて「ハグしたくないもの」に出会い、困ってしまいますが、
ついにいつものように「ハグ」をすると、その人はびっくりして逃げて行きます。
そうして、少しだけ傷ついた木をハグすると、木もまた幸せでした...。』
競争社会の中で、人生の成功を急いで求めてきた人間は、
お互いの存在をハグしあう大切な時間をどこかに置き忘れてきたのではないでしょうか。