2016年12月11日放送 田中ウルヴェ京さん(第2012回)
- 会場
- 岩松北小学校(富士市)
- 講師
- スポーツ心理学者・博士 田中ウルヴェ京
講師紹介
ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリスト。米国大学院修士修了(スポーツ心理学)。慶應大学にて博士号取得(システムデザイン・マネジメント学)。慶應義塾大学特任准教授。トップアスリートや経営者など幅広く心理コンサルティングに携わる。一男一女の母。
第2012回「パラリンピック選手に学ぶ人間の素晴らしさ」
トップアスリートのメンタルを見る仕事をしてきました。
メンタルを見る専門家にも2種類あって、
1つは試合どころか練習にも出られないようになってしまった選手、
睡眠がとれなかったり摂食障害などが起きていたりする選手を見る、
つまりマイナスの状態をゼロに戻すということの専門家です。
臨床心理士や精神科医などがこれに当たります。
2つ目は、欧米で1980年から資格として登場してきたもので、
普通に練習も出来て試合にも出られるけれど、
本当の実力を大事な時に出したいと言う、ゼロからプラスへの心理を扱う専門家です。
日本では日本スポーツ心理学会が扱っていて
私はそこの上級指導師として、車イス男子代表チームを見ています。
よく、オリンピックとパラリンピックはどこが違うのかと聞かれます。
足がなかったり、目が見えなかったり、そういうことですよねと言われます。
右手がない人が左手をどう鍛えるのかということはとても大事でしょうが、
私は心理を見る専門なので、何を見るのかというと"頭"を見るのです。
感情、心、不安、暖かさ、こう言うもののすべては"頭"です。
そして私はよく質問をします。
「いつ事故をしたのか」「手が動かないと言うがどの程度なのか」などです。
同じように見えても、
先天性の障害のある人と事故などで手足をなくした人とは感覚が違います。
昔は陸上や野球でスーパースターだったと言う選手には、
足をなくしたときどう思ったのか、病院ではどういう風に思われていたのか、
なぜパラリンピックに挑戦しようと思ったかなどの質問をします。
アメリカではじめて会ったパラリンピックの選手は、
身長1メートルほどの小さな人で、何を話したらいいのかわからず、
ただ可哀そうだと思っていたのです。
それがそのうちに親しくなり、飲みに行ったり海に遊びに行ったりすると、
くだらない冗談も言うようになり、
やがては、必死に自分の限られた体を使って
限界に挑戦している人という意味で私と同じ変人だと思えるようになりました。
重度の障害で腹筋も背筋も使えない選手がいます。
その彼がシュートをするのを見て、
どうやっているのか聞いてみたら「気合じゃねー!」といいました。
トイレに行きたいという感覚のない人が、袋を腰に下げて練習している。
車イスバスケからは、生命力や重厚感のある暖かさを感じることがあります。