2010年7月 3日放送 大沼えり子さん(第1694回)
- 会場
- さくら台幼稚園(富士市)
- 講師
- 保護司・作家 大沼えり子
講師紹介
1957年宮城県生まれ。
大学卒業後、シンガーソングライターとして
東京、仙台を中心に活躍。
2001年保護司委嘱。
少年院向け院内放送制作の他、
少年の自立を支援するNPO法人代表をつとめる。
番組で紹介した本
「子育てよかった物語」
著:大沼えり子
発行:学研パブリッシング
(税込1,260円)
第1694回「「ありがとう」の力」
私には2人の子どもがいます。
仕事が忙しく、接する時間があまりありませんでしたが、
絵本だけは子どもが12歳になるまで読み続けていました。
300冊ほどになった絵本は、母親の証として捨てきれませんでした。
でも、大きくなった子どもが「どこかで役立てたら」と言ってくれたので、
児童養護施設に寄付しました。
そこで、絵本の読み聞かせをした時のことです。
5歳くらいの女の子が、私の腰にしがみついてきて、最後まで私を離しませんでした。
よく見ると、腕には虐待の痕が残っています。
終わって帰る時、子ども達が私に言った言葉は「ありがとう」ではなく、
「今度いつ来るの、明日は来ないの」でした。
この言葉がすべてを物語っていると思いました。
ここにいる子ども達は辛い思いをして、
「ありがとう」と言える余裕がないのだと思い知らされました。
今、私のしている保護司とは、
非行に走ってしまった少年少女の社会復帰を手助けする仕事です。
この仕事を通じて1人の少年と出会いました。
身寄りがないため面会に来る人もなく、手紙も来ない少年でした。
私は母親のつもりで、手紙を出し続けていました。
その少年が施設を出てからは音信不通でしたが、ある時、突然訪ねて来ました。
私からの手紙だけが楽しみだったと語り、1枚の卒業証書を見せてくれました。
それは定時制高校の卒業証書で、頑張って卒業し、元気に働いていると話しました。
そして「先生、ありがとう」と言ってくれたのです。
保護司をしていて、良かったと思う瞬間です。
お父さんもお母さんも、普段から「ありがとう」を使っていれば、
お子さんにも伝わると思います。
「ありがとう」は心から心へのプレゼントです。