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第28回 中部テレビ大賞 大賞受賞 『58年 無罪の先に-袴田事件と再審法-』

​● 第28回 中部テレビ大賞 大賞受賞 『58年 無罪の先に-袴田事件と再審法-』

テレビ静岡制作ドキュメンタリー番組『58年 無罪の先に-袴田事件と再審法-』が第28回中部テレビ大賞 大賞を受賞した。
中部テレビ大賞は、中部地方の30歳以下のディレクターが制作した優れたテレビ番組を選び、テレビ局やスタッフを応援することを目的とした賞でその中で大賞は最も優れた賞である。
 
審査委員の一人、伊佐治弥生氏は「時系列で描かれており、事件のことがとてもよくわかった。それとともに、途中から浮かび上がってくる再審法について多方面からアプローチされており、興味深く観ながら理解することができた。豊富な資料と資料映像で描かれていて、楽に見ながら見ごたえがあった。近年、日本人の『考える力』が衰えてきたというのは、簡単に答えがわかるネットの普及と無関係ではない。参議院選挙の結果に危機感を覚えると同時に、本作のような良質のドキュメンタリーの必要性を強く感じた。個人的には、再審法のことを知らなかったので袴田事件の重大性を認識できて、不明を恥じるとともに学ばせていただいた」と評した。

​● 受賞作品

<タイトル>
『58年 無罪の先に-袴田事件と再審法-』
<内容>
袴田巖さん(89)は1966年6月30日に当時の静岡県清水市で一家4人を殺害したとして逮捕され1980年に死刑判決が確定した。弁護団の度重なる再審請求を経て、事件発生から58年が経過した2024年9月26日、静岡地裁がやり直しの裁判=再審で無罪を言い渡すと検察は控訴を断念。袴田さんの無罪が確定した。しかし「これでよかった」で終わらせてはならない。なぜ58年もの年月がかかってしまったのか。事件にかかわった弁護士・検察官・裁判官の証言と過去の審理記録を紐解くと法的根拠がないことを理由に自分たちが持っている証拠の開示を拒み続けてきた検察の姿勢が見えてくる。しかし2010年、検察は突然方針を変更。それまで拒み続けた証拠開示に応じ始めた。新たに開示された証拠は600点を超え、結果的に開示された証拠が袴田さんの無罪に繋がった。
なぜ検察は突然証拠を開示したのか、なぜもっと早く証拠は開示されなかったのか、1日でも早く証拠を開示し審理の長期化を防ぐためにはどうしたらよいのか。58年間弟の無実を信じ続けた姉・ひで子さん(92)は言う。「拘置所にいた巖の48年間を何とかいい方法に利用してもらわなきゃしょうがない」。ひで子さんが各地の講演などで訴えるのも「再審法」の改正だ。無罪を勝ち取るために闘った姉と弟の58年を決して無駄にしないために、無罪の先に見据えるものとは。

​ ● 制作者コメント

福島流星ディレクター(テレビ静岡 報道部・記者)
袴田巖さんの再審無罪に繋がった証拠は事件発生から30年近く経って検察がようやくその存在を明らかにしたものです。法律に興味があったわけでもない私にとってはそもそもすべての証拠が裁判で明るみになるわけではないという事実に衝撃を受けました。検察は国家権力を使って集めた証拠のうち自分たちに不利な証拠は提出しない=隠すことができるというのです。しかし2009年に始まった裁判員裁判において検察は自分たちが持っている証拠の一覧表を弁護側に示すことが義務付けられています。持っている証拠を示すことで論点を整理し審理の時間をできるだけ短くすることで裁判員=市民の負担を減らすことが狙いだといいます。通常の裁判で認められている証拠開示が再審請求審では認められていないのです。取材を進めると再審法はおよそ100年間ほとんど見直されていないことがわかりました。つまり100年前の規定で「冤罪」かどうかを判断しているのです。その結果1人の男性が死刑か無罪か、その結論に至るまで58年もの年月がかかりました。ある専門家は「社会が注目する冤罪は氷山の一角。列車内の痴漢事件など『大ごと』にしたくないと、やってもいないのに罪を認めてしまうケースがある」と指摘します。明日突然あなたが、あなたの家族が、あなたの大切な人が冤罪に巻き込まれてしまう可能性もゼロではありません。2014年、最初に袴田事件の再審開始を認めた元裁判官・村山浩昭氏は言います。「再審法の改正は今の時代の責任だ」と。今の時代を生きる記者の責任として、事件を知らない人にも法律に興味がない人にも再審法について考えるキッカケを提供したい、そう願い番組を制作しました。

2025年08月21日