「検察にとってかなりの痛手」元検事・若狭弁護士 袴田事件再審開始決定は“無罪へのメッセージ”か 

2023年03月13日(月)

事件・事故地域

若狭弁護士(右)と再審開始決定を喜ぶ弁護団

1966年当時の静岡県清水市で一家四人を殺害したとして死刑判決が確定していた袴田巖さんをめぐり、13日 東京高裁は再審開始決定を出した。元検事の若狭勝弁護士は「検察にとってかなりの痛手」で、「再審裁判で無罪に傾くべきとのメッセージが含まれている」と、東京高裁の決定を読み解く。

【動画】「検察にとってかなりの痛手」元検事・若狭弁護士が解説  袴田事件 再審開始決定

◆「検察にとってかなり痛手」

若狭勝弁護士(元東京地検特捜部副部長)

― 東京高裁の再審開始決定についての感想は?

若狭勝弁護士(元東京地検特捜部副部長):
極めて本日の東京高裁の決定というのは、(袴田さんが)無罪、冤罪であるということを色濃く表す決定だったと思う。検察にとってはかなり痛手、想定以上だったのでは。東京高裁の決定は、「冤罪、証拠が作られているのではないか」という判断が示されている。それについては、検察側はショックを隠せないのではないかと思う。

若狭弁護士「東京高裁の決定は想定どおり」

― 若狭弁護士にとっても「想定以上」だったか?

若狭勝弁護士:
私自身は去年12月頃からの東京高裁の動き、具体的には東京高裁の裁判長が袴田さんに直接会って話を聞いたり、あるいは静岡地検に東京高裁の裁判長が自ら赴いて検察の実験を自分の目で確かめているので、「これは再審開始決定の方に動いているのではないか」と思っていた。私の中では、ある意味、想定通りだった。

◆“血痕の色” 弁護側の主張認める

犯行着衣とされた5点の衣類

今回の審理の争点は、長期間みそ漬けにされた着衣の血痕に赤みが残るかどうかだった。

審理では専門家の知見を踏まえ、弁護団は「赤みは残らず黒い色になる」、検察側は「赤みが残る可能性がある」と主張してきた。これに対し 東京高裁は、「赤みが消失する」と弁護団の主張に沿った判断を示した。

血痕の色をめぐる双方の主張

― 東京高裁の決定のポイントは?

福島流星記者:
長期間みそ漬けされた着衣の血痕から「赤みが消失する」とした理由について、「専門家の知見によって合理的に推測することができる」としている。長期間みそに漬かった犯行着衣であれば、「赤みは消え黒くなる」と判断した。

東京高裁の決定内容

その結果、事件から1年2カ月後に見つかった5点の衣類について、「袴田さん以外の第三者がタンク内に隠してみそ漬けにした可能性も否定できない」としている。そして、この第三者には捜査機関も含まれ、「事実上 捜査機関による可能性が極めて高い」と、かなり踏み込んだ決定内容となっている。

若狭弁護士「無罪に傾くべきとのメッセージ」

― 検察に“厳しい”文言の受け止めは?

若狭勝弁護士(元東京地検検事):
おそらく今後始まる再審の裁判を見据えた、今回の高裁の決定だったと思う。単に捜査機関による、いわゆる“ねつ造”という言葉を使っていないが、捜査機関によって証拠が作られた可能性にかなり強く踏み込んでいる決定だった。それを踏まえれば、再審の裁判においても、当然これはもう「無罪という方向に傾いていくべきだ」というメッセージが、今回の決定に読み取れるように思う。

◆検察側の今後の対応は?

袴田事件のこれまでの経緯

事件が発生したのは1966年6月で、間もなく発生から57年になる。

袴田さんは裁判で一貫して無実を訴えて再審を求めてきた。2014年に静岡地裁が再審開始決定を出し、13日の東京高裁が2回目の再審開始決定だ。

今後の裁判の流れ

― 今後の裁判は?

福島流星記者:
東京高検が特別抗告をするかどうか、今回の決定に不服を申し立てるかどうか判断することになる。その手続きの期限は3月20日まで。特別抗告した場合は、最高裁で改めて再審を開始するのか審理が続けられる。仮に検察側が特別抗告をしない場合は、静岡地裁で再審、やり直しの裁判が始まることになる。

若狭弁護士「検察は再審の土俵で主張を」

― 元検察官として、検察の対応をどうみる?

若狭勝弁護士(元東京地検検事):
東京高検としては特別抗告をしたいという気持ちは可能性としてはあると思うが、現実問題として、特別抗告するのは難しいと思う。

理由としては、すでにこの事件は最高裁まで行って、(2020年に)最高裁から「5点の着衣の血痕の色、赤みが消えるのか残るのかという点について、もっとよく審理をしなさい」ということで、最高裁から東京高裁に差し戻された。そういう経緯があるので、今回の高裁決定は、最高裁が出してきた宿題に対して答えたことになる。

その宿題に答えたものを、今度また検察が最高裁に「いや待って、もう一度 最高裁で判断して」ということは、もう繰り返しを求めるようなものだ。そうなると時間だけどんどん過ぎ去っていくので、それでいいのだろうかという批判が起きかねない。

検察としては再審という裁判が今後用意されているのであれば、その土俵で自分たちの主張をすればいいという判断に傾く可能性があると思うし、私としては元検事としてやっていた立場であったとしても、やはり再審というところに土俵を置いて今後進めるべきだと思う。検察としても難しい判断が求められると思う。

◆袴田事件の裁判で何を学ぶ?

袴田巖さん

― この裁判を通じて何を学ぶべきか?

若狭勝弁護士:
今回の袴田事件というのは、死刑判決が出たところに大きな特徴がある。
刑事裁判というものは、証拠が作られることによって場合によっては死刑判決がなされてしまう。それだけ裁判官にしろ、検事にしろ、人間だから過ちがあるんだということにきちんと着目して、今後、刑事裁判、特に死刑制度、あるいは死刑の言い渡しというのが、どういう形で出されるべきかを、我々に投げかけてきている。それだけ大きな重みのある本日の決定だと思う

再審開始決定を喜ぶ袴田ひで子さんや弁護団

― 再審のあり方について

若狭勝弁護士:
再審に関する法律の中で、証拠開示の問題と、検察が不服申し立てをすることをもっと制限すべきではないかという2つの課題がある。
証拠開示については、検察も昔に比べると証拠開示を他の事件でもよく行ってきていると思う。証拠開示が一般の事件で最近かなり認められてきているとすれば、再審もやはり「推定無罪」というのをどこかで働かせて、証拠開示をもっと進めるべきだと思う。
ただ、無制限に証拠開示を全面的にすると、それによって本当の真犯人が処罰できなくなってしまうという恐れもあるので、みんなが知恵を絞って、証拠開示がどの程度どういう時になされるべきかを、もっと議論を深めることが必要だと思う

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