寿司文化を守るための”奇策”は副業にあり?老舗4代目の新たなる挑戦 開店した新業態が目指すもの

2024年11月11日(月)

地域ビジネス(政治・経済)

植松隆二さん(左から2人目)と副業寿司職人たち

日本が世界に誇る“寿司”。ただ、近年ではチェーン店の勢いに押され、特に地方ではいわゆる“回らない”寿司店の店舗が減っていると言われている。こうした中、静岡県下田市では老舗寿司店の4代目が新たな取り組みを始めた。

【動画】副業は寿司職人?後継者不足で寿司店の廃業が相次ぐ中で老舗の4代目が考えた”奇策”

“街の寿司店”が3分の1に減少

「美松」4代目・植松隆二さん

伊豆半島の南端・静岡県下田市で88年続く老舗・美松。慣れた手つきで魚をさばいているのが、この店の4代目・植松隆二さん(33)だ。

高校卒業後、東京で10年修行を積んだ植松さんは2021年、父の後を継ぐため生まれ故郷に戻ってきた。

植松さんと父・幹男さん

しかし、少子高齢化に伴い人口減少が止まらない下田市では、チェーン店を除く寿司店がピーク時には18店あったものの、現在は6店と3分の1にまで減った。

植松さんは「後継ぎがいなくて廃業してしまう店舗が多い」と打ち明ける。

下田市では寿司職人も高齢化していて、美松でも33歳の植松さんが最も若く、次に若いのが父で3代目の幹男さん(64)というのが現実だ。

「美松」4代目・植松隆二さん

美松4代目・植松隆二さん:
「本業で寿司職人を10年修業します」という人は、なかなか田舎に来ないと思っている。やはり(都会の)有名店に修業に行ったり、できる人たちは海外に行って収入をあげたりする流れが今できている

ケータリングサービスで握り体験

ケータリングサービスで握りを指導

このままでは下田から寿司文化が消えてしまうのではないか…

そこで2021年頃から始めたのが、客先に出向いて寿司を握るケータリングサービスだ。

このサービスでは寿司のおいしさを知ってもらうと同時に寿司という文化を楽しんでもらうことも目的としているため、植松さんが握った寿司を食べるだけでなく、寿司の握りを体験することができる。

自分で握った寿司を食べる参加者

植松さんは「シャリをとる、ネタをとる、人差し指でワサビをとる、つける、のせる。口の中でほぐれやすくするためにはどうしているかというと…」「並べ方もセンスが出るので、同じ色で揃えたり、交互にしたり…」と、職人のコツを伝授していく。

参加者は「楽しい。結構難しい。思ったような形にならない」「思ったよりも繊細さが要求されて見ているよりもすごく大変だった。でも、作った時の達成感がすごくあり、またやりたいと思った」と楽しんだ様子だ。

修業と副業収入の一石二鳥

副業寿司職人に指導する植松さん

握りの体験が反響を呼ぶ中、植松さんはある考えに至る。
それが副業として寿司を握る職人の育成だ。

「美松」4代目・植松隆二さん:
寿司職人といっても一流の寿司だけがすべてではないと思っている。回転寿司があって、うちのような町寿司の店があって、高級店のような店もある。その中でどこで働く人も“寿司職人”と呼んでいいのではないかと思っているので、もう少し“寿司職人”という枠を広げ、より寿司に興味を持ってもらう人を増やしたい

副業寿司職人の女性たち

この日、下田市に出来た宿泊施設のオープニングイベントで寿司を握っていたのは若い女性3人だ。いずれも別の職業を本業とする中、植松さんから握りの手ほどきを受けた“副業寿司職人”だ。

植松さんは「3人とも副業寿司職人で、2人はきょうが初めて。本業の仕事をしながら何かできないかということで、寿司体験の延長で『より握りたい、もっと上手になりたい』という人たちです。きょうのイベントが(皆さんが)副業寿司職人を応援するきっかけになってくれれば」と、来場者に彼女たちを紹介。

副業寿司職人を始めた女性

“副業寿司職人”の女性たちは「普通に修業するとすごく時間もかかるし大変だと思うので、すごくいい機会だと思い参加した」「私は(寿司は以前)1回だけ握って、その1回で200貫くらい握らせてもらった」と話す。

副業寿司職人が握った寿司

“副業寿司職人”の握りを食べた来場者は「シャリも小さくてネタとのバランスがすごく良かった。とてもおいしい」「正直に言って、寿司の形はちょっと崩れていたが、(味は)まあまあいける。回転寿司のチェーン店より心がこもっていていいのでは」と一定の評価を下した。

立ち食い寿司店で副業職人を育成

副業職人の実践の場となる立ち食い寿司店

また、植松さんは副業として寿司職人を目指す人たちの実践の場として立ち食い寿司店を計画し、2024年11月に「寿しらぼ三〇二(みまつ)」がオープンした。

この立ち食い寿司店を自らの店を持たなくても副収入を得ながら技術を上達させる場にすることを目指している。

美松4代目・植松隆二さん:
「新しいことがここで始まるだ」という気持ち。楽しみです

会社員や大学院生が寿司を握る

この日は東京都の大学院生や神奈川県に住むビールメーカー営業マンが寿司を握り、来店客は「雰囲気も楽しくて元気があって、おいしくいただいています」と満足げな様子だ。

価格は1貫300円(期間限定)で、週末に営業する予定だという。

美松・植田隆二さん

「飯炊き3年、握り8年」といわれる寿司職人の世界で、植松さんの取り組みが業界に新風を巻き起こすのか。

その挑戦は始まったばかりだ。

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