山林火災後に水の流れが変わった斜面と今泉教授
春から初夏へ向かい、次第に近づくのが雨の季節。近年はこれまでにない雨の降り方で、毎年のように豪雨災害が発生しているが、そうした中で被害を減らすため重要な存在が森林だ。その役割を改めて考える。
【動画】頻発する豪雨災害…森林の役割とは? 専門家「山火事で失われてしまうと雨の水が地中に浸透しづらくなる」今泉文寿 教授
着陸直前…強風にあおられ機体を揺らす航空機。春の嵐が各地に影響を及ぼす季節となった。そして、まもなく豪雨が脅威となる時期がやって来る。
近年、これまでに経験のない大雨が頻発し、豪雨災害が増えている。
そうした中でも、水をため込む重要な役割を果たしているのが森林だ。
静岡大学 防災総合センター・今泉文寿 教授:
森林が発達した斜面であれば、斜面上を水が流れるというのはほとんどない。100%に近く、地中にいったん浸み込んで、ゆっくり川まで流れていく
雨が増える出水期に向け、特に心配されるのが森林が失われた場合だ。
大船渡市の山林火災(提供:総務省消防庁)
2025年は岩手、岡山、愛媛、宮崎と大規模な山林火災が相次いだ。
中でも岩手県大船渡市では、市の面積の1割に迫る3370ヘクタールもの地域が焼失する事態となった。
発生から鎮火まで41日を要し、いま地域に新たな脅威をもたらしている。
村田彬 記者:(2025年3月・岩手県大船渡市)
こちらには斜面が崩壊する危険性があることを示した看板があります。奥には土をせき止める壁があるのですが、火災の影響からか崩れてしまっています
千葉千代子さん
大船渡市内で暮らす千葉千代子さんは火災のあと雨が降った際、裏山の異変に気付いたと話す。
千葉千代子さん:
ここですね。排水管の脇に(痕跡が)あるじゃないですか。あそこから(水が)すごかった
斜面の擁壁に残るのは水が流れた痕跡。
雨は排水管ではなく、山の斜面から大量に流れ出していた。
千葉さんの自宅も火災の熱で窓枠などに被害を受けた。
雨が増えるこれからの時期に大きな不安を感じている。
千葉千代子さん:
土砂崩れが今後どうなるのか一番心配。今までは下で寝ていたが2階で寝るようにしている
焼けた木々と山肌(大船渡市)
雨が地表を流れるのは水分を吸収できる量 、浸透能が低下したためで、落ち葉など地表を保護するものの焼失や土壌の性質変化などが要因と考えられる。
砂防学を専門とする今泉教授は心配される災害としてまず土石流を挙げる。
静岡大学 防災総合センター・今泉文寿 教授:
山火事で森林が失われてしまうと、雨の水が地中に浸透しづらくなり渓流に雨水が一気に大量に集中するようになり、渓流周辺の土砂を巻き込んで土石流として発達し下流側に影響を及ぼしやすくなる
大船渡の山林火災消火活動(提供:総務省消防庁)
地震が起きたあとには土砂災害に備えるため、大雨警報の発表基準が引き下げられることがあるが、今回のケースではそれも容易ではないと言う。
雨量と土砂災害の研究は重ねられているが、これほど大規模な山林火災が起きた事例は少ないためだ。
静岡大学 防災総合センター・今泉文寿 教授:
警戒雨量をどれ位 引き下げたら良いか知見が十分にたまっていない。現時点で決めることは難しい。ただ、土石流が発生しやすくなっているのは確かなので、気象情報などに注目をしてもらい、大雨や土砂災害のリスクが高まりそうな時は、積極的に避難をしてもらうのが良い
大船渡山林火災の消火活動
この夏や秋ではなく、例えば5年後にリスクが高まる災害が崖崩れだ。
静岡大学 防災総合センター・今泉文寿 教授:
山火事によって樹木が焼失してしまうと、将来的に斜面を支えていた根っこが腐って、山が崩れやすくなってしまうことも考えられる
行政には危険が大きな地点の把握と長い期間を見据えた対策が必要と指摘する。
森林の回復イメージ(資料)
植林を行って、森林を元の姿に近付ける取り組みを行った場合、まず10年程度で地中に浸み込む水の流れに変化が出て、その先10年で樹木の根が土を支える役割を果すようになるそうだ。
静岡大学 防災総合センター・今泉文寿 教授:
樹木は畑の作物と違って十分に成長するまで時間がかかる。今までの研究によると木を新しく植えてから、20年ぐらい経てば斜面を支える機能が従来通りの機能に回復するという研究成果もある。すぐにというわけにはいかないが、長い視点を持って森林を回復させていくことも必要
大船渡山林火災の跡(2025年3月)
静岡県内でもたびたび起こる山林火災。
重要なのは、まずは火事を起こさないこと、そして、いかに拡大を防ぐかだ。
万一の事態に備えてどうやって火元まで水を行き届かせるか、どう連携するのかを確かめる訓練も各地で行われている。
まもなく訪れる雨の季節。
それを前に、森林の果たす役割と山林火災の危険性に改めて目を向けることが重要と言えそうだ。