運転技能検査の様子とセフモ
後を絶たない高齢ドライバーによる交通事故。75歳以上のドライバーに義務付けられている認知機能検査の現場、さらにはAIを使った最新の運転技能診断について取材した。
【動画】後を絶たない高齢ドライバーの事故 認知機能検査の“いま” 約2%が「認知症のおそれあり」 高齢者講習に合格・不合格なし県自動車学校での認知機能検査
教官:
この中に花があります。それは何ですか?
受講者:
バラ
教官:
バラですね
静岡市葵区にある県自動車学校で毎日のように行われている認知機能検査。
運転に必要な記憶力や判断力を判定するためのもので、75歳以上のドライバーは3年に一度、この検査をクリアしなければ免許を更新することができない。
認知機能検査の「名称テスト」
教官:
2と5と8に斜線を引いて消して下さい
内容は指定された数字に斜線を引いたり、日付を尋ねられたりと様々だが、中でも多くの人を悩ませていたのが…
教官:
これはオルガンです。これは耳です
モニターに映し出された16枚の絵を記憶して名称を書き出すテストだ。
すらすらと書き進める人がいる一方、1つも思い出すことができないまま回答を断念する女性も。
そこで女性に「免許は返納するのか」と尋ねると…
女性:子供たちからも言われる、『もう(運転は)いいにしたら?』と。18歳から(車に)乗っているからもういいかな
ただ、そう口にしたものの女性は自らの運転で自動車学校を後にした。
視力検査
静岡県警よると2024年に県内で認知機能検査を受けたのは約11万人。
そのうち2500人近くが「認知症のおそれがある」と判定されたという。
検査員:
75歳以上の中では動体視力が少し見づらくなっています。夜間視力も、少し見づらくなっているので昼でも夜でも速度を抑え気味に走ってみてください
「運転免許の自主返納件数」グラフ
認知機能検査に合格すると続いては高齢者講習。
視力や視野の測定に加え、指導員を乗せて運転技能を確認するが合格・不合格はない。
県自動車学校 静岡校・渡邊祐二さん:
運転が本当に危なくて、これ以上運転したら事故を起こしてしまうというような人には(免許返納を)勧める場合もあるが、皆さん自信をもって運転しているので、なかなか難しいところはある
県警では凄惨な事故を1件でも無くすため、高齢ドライバーに対する免許の自主返納を呼びかけているが、その数は2019年をピークに年々減少している。
山梨大学・伊藤安海 教授
また、専門家の中にはそもそも運転免許の返納が事故の減少につながっていないと指摘する人もいる。
山梨大学・伊藤安海 教授:
実際にいろいろ調査してみたが、運転能力が高い人の方が年齢の割に謙虚な人が多い。逆にかなり運転能力が落ちている人の方が「まだまだ若い者には負けない」とか、「昔と運転能力は変わっていない」と言って自己評価が高い。実際には運転が危ない人というのは自分の運転が危ないから免許を返納するということにはつながらない
「運転に自信があるか」年齢グラフ
リスクマネジメントを専門とするコンサルティング会社が行った調査では、日常的に車を運転している1000人を対象に「運転に自信があるか」を聞いたところ、20歳から74歳までは「自信がある」と答えた人の割合がいずれも5割を切る一方、75歳から79歳については6割を超えた。
山梨大学・伊藤安海 教授:
結局は周りで見て「この人は危険だな」と思った時に「やめなさい」と言うのではなく、そんなに自信があるのなら、しっかりと専門家に見てもらう、然るべきところで検査を受けてもらうという形で定量的に能力を評価するところにつなげることが非常に大事
セフモによる運転記録
こうした中、県自動車学校では2024年、運転技能を定量的かつ客観的に評価するサービス・セフモを県内で初めて導入。
車に取り付けられたカメラやGPSで運転の特徴を記録し、AIが100点満点で判定する。
記者が体験してみると…。
教官:
今回、100点
記者:
あ、よかった…
教官:
今回のテストで減点する内容はありませんでしたが、本当は左に寄せて曲がるところ、少しここで(右に)広がったのがわかりますか?何か危ないもの、歩行者や自転車がいればわざと避けることもあると思いますが、そうでなければ、もう少し左に寄ってから曲がるほうがいいかもしれません
県自動車学校静岡校(セフモ担当)中嶋貴夫さん
県自動車学校 静岡校(セフモ担当)
中嶋貴夫さん:
運転を他の人に評価されるのではなく、AIが実際に診断することで認知症傾向のある人の運転と比較してどうかということがわかる
セフモの所要時間は長くても50分。
その手軽さも魅力の1つだ。
県自動車学校 静岡校(セフモ担当)
中嶋貴夫さん:
法令での免許更新は3年に1回だが、できれば3年に1回だけ振り返るのではなく、人間ドッグのように1年に1回のペースで自分の運転を振り返ってもらい、できるだけ安全運転を継続する、その手伝いをしたい
自分だけは大丈夫。
そんな慢心が重大な事故につながることがないよう定期的に自分自身の健康状態や運転技能を見つめ直すことが大切だ。