伝統産業・遠州織物に携わる2人
静岡県浜松市を中心に江戸時代から続く伝統産業・遠州織物。優しい質感と独特の風合いの生地が特徴で、品質の高さにほれ込み多くの人に知ってもらおうと市役所を辞め、洋服のブランドを立ち上げた男性がいる。
【動画】“遠州織物”を知っていますか?高い評価とは裏腹に低い知名度 生地に魅せられ市役所を辞めてまでオリジナルブランドを立ち上げPRHUIS・松下昌樹 社長
2025年6月1日、静岡県浜松市で開かれた販売会。売り場に並べられているものはというと…。
HUIS・松下昌樹 社長:
僕らは遠州織物をすべての商品に使っていて基本的に天然素材のもの
大阪の泉州、愛知の三河と並んで、日本三大綿織物産地として知られる遠州地域。
遠州織物は江戸時代から続く伝統産業で、高級シャツの生地として高い評価を得ている。
HUIS・松下昌樹 社長:
軽くてやわらかくてしなやか。着ている感覚がないくらいの気持ちの良さがあり、かつ丈夫で長持ちする。なぜそんな生地が生まれるかというと、昔の機械で遠州織物は織られている
遠州織物を生み出すのはシャトル織機と呼ばれる機械。現在主流となっている高速で生地を仕上げる機械とは違い職人による手作業の工程も、多く手間はかかるものの、その分、丈夫で自然なしわ感のある生地を織りなす。
浜松市民
一方、地元に住みながらも遠州織物について詳しく知らない人が多いことも事実だ。
男性:
(Q.遠州織物って知っています?)知らないですね、インスタグラムで見たことがあるかもしれない
男性:
遠州織物知っていますよ。(Q.海外の有名ブランドも使っているのは?)それは初耳でした
遠州織物を使ったアパレル
多くの人に魅力を伝えたい-
そう思い、10年前に遠州織物を使ったアパレルブランドを立ち上げた松下昌樹さん(45)。
以前は浜松市役所に勤めていて、産業振興に関わる中で遠州織物の存在を知ったことがきっかけだった。
HUIS・松下昌樹 社長:
(遠州織物を)全く知らないという歯がゆさがあり、とにかくすごい人がいる、すごい技術があってすごい生地が作られている、ということを地元の人に知ってもらいたい
接客中でも遠州織物の特徴を積極的にPRすることに余念がない。
HUIS・松下昌樹 社長:
シャツ生地の中でもかなり軽い生地だけど、すごく丈夫でもあるのでパンツに使っていてすごく軽くて気持ちのいいパンツになる
常設店での試着
これまでは主にインターネットで商品を販売してきたが着心地の良さはもちろん、デザイン性が評判を呼び今回初めて常設の売り場を設けた。
男性客:
着心地の良さとユニセックスなので妻とも共有できるのが気に入っている
女性客
常設店があると、よりいろいろな人が買える。ネットだと試着ができないので(常設店は)いいと思う
古橋織布・古橋佳織理 社長とシャトル織機
創業97年の古橋織布。
老舗メーカーとして今も遠州織物産業をけん引している。
古橋織布・古橋佳織理 社長
シャトル織機は20台保有している。40~50年前に作られていまは製造されていないビンテージの機械を大事にメンテナンスしながら使い続けている
ただ、1970年代には1000軒以上あった製造業者も現在は30軒ほどにまで減少。
古橋織布でも若手の雇用を積極的に進めてきたが、遠州織物の知名度の低さは悩みの種だった。
古橋織布・古橋佳織理 社長
これだけすごい織物を織っているが、なかなか地元で認知されていないのは、寂しいというかいたたまれない状況だった。織る前の縦糸の準備工程業者とかが、どこもかしこも70代・80代で跡継ぎや後継者がいない、若手も雇用していないという危機的状況
古橋織布・古橋佳織理 社長
こうした中、松下さんの奮闘もあって徐々に認知されるようになり、今では遠州織物に携わりたいという声が増えるなど明るい兆しも見え始めている。
古橋織布・古橋佳織理 社長:
私たちは織るのが専門で、最終製品を作って販売まではなかなか手が届かない状況の中で遠州織物やシャトル織機というものづくりの特徴を私たちの代わりに伝えてくれて、これだけ認知度も上がってきたのは心強いパートナーだと思っている
HUIS・松下昌樹 社長と古橋織布・古橋佳織理 社長
HUIS・松下昌樹 社長:
「浜松ってすごいんだよ」「遠州織物って聞いたことある?」と間違いなく自慢ができることなので、地元の若い人や子供たちにも誇りをずっと受け継いでいって欲しい
150年以上の長い歴史を持つ遠州織物。
伝統を絶やさないためにも松下さんはこれからも職人の思いも乗せた商品を手がけていく。