
2025年6月8日放送
- 会場
- 菊川文化会館アエル(菊川市)
- 講師
- フリーアナウンサー むかいさとこ
プロフィール
大阪府出身。元福島テレビアナウンサー。俳優、ナレーター業のほか、講演や研修も行う。2013年、元小学校教諭の鹿島和夫氏と「あのね文庫 詩 コンクール」を立ち上げる。
第 2435 回
幸せになる「ほんま言葉」
[せんせい あのね]は、40年くらい前に神戸市の教員だった鹿島和夫先生が始めた取り組みで、”せんせい、あのね…”というフレーズから始まる児童と先生の交換日記のようなものです。その目的は上手な文章を書くことではなく、子どもの心を育むことでした。[せんせい あのね]には、子どもたちの心から弾ける『ほんまの言葉』がたくさん収録されています。そこには『人生100年時代』を生き抜くためのヒントがありました。
みかちゃんという子がいました。真面目でちょっと人と話すのが苦手な子で、“あのねちょう”を毎日書くのは大変でした。その時書いたのは、
【わたしはきょうこうえんであそんで、かえったら5じすぎていて おかあさんにおこられたから あしたからは きをつけようとおもいます】
いわゆる日記ですが、鹿島先生は見逃しません。「いひひっ」と笑って、「これ、ほんまか?」と聞きました。みかちゃんは考えていて、その間ずっとずっと鹿島先生は待ってくれました。考えて考えて出てきたのが、「いや、ほんまは遊びに夢中になっとって。5時過ぎとんのわからんかった!」でした。先生に怒られるのかなと思ったら、「はは!そうやろ!それ書いたらええねん」と言われたみかちゃんは肩の荷がおりて、「なんや、いいことじゃなくてほんまのこと書いたらいいんや」と気がついたそうです。先生は答えを言わず、子どもたちの中からあふれ出る言葉や発見を、じーっと待ってくれました。本音を言う生活が始まると、みかちゃんは次々に面白い作品を作り出していきます。
【わたしたちは目を大きくしてみるのに おばあさんは本とはなして目をちいさくしてみる わたしは小さくしたらみえないのに おばあさんは小さくしてもみえるから おばあさんのほうが てんさい】
みかちゃんは大人になってからも“あのねちょう”を始めて、「自分ってこんないいとこあるやん」というのを主に書いているそうです。するとだんだん自己肯定感がついて、自分が楽しく過ごせるだけでなく、人にも愛を与えられるような人になり、職場でも人気者だそうです。みかちゃんは「“あのねちょう”を書いていたから今がある」と、過去の自分と鹿島先生に感謝していると話しています。
『人生100年時代』を生き抜くためには、経済的なこともそうですが、やはり人との関わりが大切だと思います。一行日記や手帳の端でもいいので、その時のことをしたためていくと、それが言葉貯金になり、人と関わることの役に立ちます。誰か読んでくれる人がいるかもと思いながら書くのもいいかもしれません。そして良いことよりも『ほんまの言葉』を伝えると、人は信頼してくれ、仲良くなれます。[せんせい あのね]から、ヒントを得ていただけると嬉しいです。