
2025年6月15日放送
- 会場
- 静岡県男女共同参画センターあざれあ(静岡市)
- 講師
- 落語家 立川談慶
プロフィール
1965年長野県生まれ。慶応義塾大学卒業。3年間のサラリーマン経験を経て、落語の道へ。
立川談志18番目の弟子。2005年真打昇進。本格派(本書く派)落語家、著述業でも活躍。
第 2436 回
落語を知ったら 悩みが消えた
落語を聴くと笑うばかりではなく、心がほぐれたり、良い気持ちになるのは、なぜだかご存知ですか。これは落語というのが、「ダメ」な人間をベースに書かれている世界だからです。
現代の世の中というのは非常に世知辛く、良いか悪いか、正しいか正しくないか、という[二元論]に追いやられています。一方で落語というのは[二元論]ではなく、「良いも悪いも」という[一元論]の世界なわけです。「マジメ」でも「不マジメ」でもなく「非マジメ」というのが落語のポジションです。
人の悩みというのは主に、人間関係、仕事、お金の3つが代表格かと思います。そんな悩みを解決する1つの要素として、落語を生かしてみてはどうでしょう。例えば「人間関係の悩み」には「長屋の花見」という落語。
ある日、貧乏長屋の住人たちが大家に呼び出され、店賃の催促だろうとビクビクしていると、大家は「酒とつまみは受け持つから花見に行こう」と言います。いざ行ってみると、お酒は番茶を煮出した[お茶け]、卵焼きは[たくあん]、かまぼこは[大根の漬物]だった。酔うはずのない酒(茶)を飲みながらも、酔ったふりをしてその場を楽しく騒いで過ごしていると、住人の一人が大家に言います。
「近いうちに長屋にいいことがありますよ」
「なんでだい?」
「見てください、酒柱が立ってます」
酒に見立てたお茶けを飲んでいるため、「茶柱ならぬ酒柱が立った」というオチです。
この落語をどう人間関係の悩みに生かすかというと、「一人で抱えるのはやめましょう」という発想です。辛いことや面倒くさいことがあったら、自分一人だけで背負いこむことはありません。悩みも割り勘でいいんだな、というイメージが浮かぶのではないでしょうか。
また、お酒やごちそうを別のものでごまかすという「妄想力」は、手元にないものを嘆くのではなく、目の前にあるものを「最高のもの」と置き換え、その場を楽しく過ごす、いわばマイナスな物事をプラスに変えるヒントになります。
落語というのは、そばに置いていても皆さんの邪魔にならない、折りたたみ傘のような存在だと思います。折りたたみ傘では、雨が強ければちょっと濡れるかもしれないけれど、肝心なところは濡れずにすむ。皆さんが悩んだり傷ついてしまいそうな時こそ落語を聴いて、悩みを解決するヒントを得たり、ちょっと心にゆとりを灯していただけるような、落語とはそんな付き合いでいていただけたらと思います。