2025年6月22日放送

会場
テレビ静岡(静岡市)
講師
札幌市円山動物園参与 小菅正夫

プロフィール

1948年北海道生まれ。北海道大学獣医学部卒業後、
旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。
飼育係長、副園長を経て1995年園長に就任。
現在は札幌市環境局参与円山動物園担当。

第 2437 回
アジアゾウ 奇跡の誕生

動物園を代表する生き物のひとつに「ゾウ」がいると思います。私は旭山動物園を定年退職後、ゾウのことをもっと学びたいと思い、スマトラ島で専門家に弟子入りしていろいろ教わりました。その知識がいま円山動物園でとても役に立っています。

2018年、ミャンマーと日本の国際交流が始まって60周年の記念に、円山動物園にアジアゾウを迎えることが決まりました。繁殖のことを考えると、相性の良い群れであることが重要です。さらに人との関係が良いことが大切なので、円山動物園の職員と飼育員も一緒にミャンマーへ行き、群れのリーダーで最年長のメス「シュティン」とその娘の「ニャイン」、若いメスの「パール」、そしてオスの「シーシュ」の4頭に決まりました。

新しく建てたゾウ舎には、ゾウが泳げる深さ3mのプール、地面は深さ1mの砂、餌は上から吊るなど、自然の中で過ごすのと変わらない生活が送れるよう工夫しました。また、新しい飼育方法も取り入れました。基本的には象と同じ空間に入らず、柵越しにケアしながら飼育する。これを「準間接飼育」と言い、象にとっても人にとっても安全で良い飼育方法だと、今は評価されています。

2022年の春頃、パールの妊娠が分かりました。準間接飼育での出産は日本では初めてのことで、すぐに赤ちゃんを助けに入れないなど、不安要素がいくつもありましたが、みんなで話し合った結果「この出産はうまくいくか分からないけれど、若いニャインに見せることで次につなげよう」と決めました。

2023年8月19日、夜10時頃に陣痛が始まりました。出産まで数時間かかると思っていたら、なんと30分位で産まれました。パールは本当に冷静で、出産後すぐに羊水で濡れている赤ちゃんに砂をかけ、そしてポンっと軽く蹴ります。1mぐらいコロコロと転がるけれど、地面が砂だから怪我もなく、何回かやっているうちに10分ほどで赤ちゃんが自分で立ち上がりました。パールは初産でしたが、完璧なお母さんでした。

赤ちゃんは「タオ」と名付けられました。生後2ヶ月頃から他のゾウと一緒にしたところ、バラバラに過ごしていた大人のゾウが、タオに誘われて集まっていきます。要するに、タオが群れをつくっている。大人が子どもを守るために群れをつくるのだと思っていましたが、子どもに備わった本能的なもので「自分を守らせる群れ」を子どもがつくるんです。人のグループでも赤ちゃんがいたら、大人が笑顔になったり協力し合ったりしますよね。そういう力を持っているのが子どもだと思います。

日本の動物園のゾウを大切に育てることで、それがミャンマーのゾウ、ひいてはアジアゾウ全体の保全になっていくことが私の願いです。

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