
2025年9月21日放送
- 会場
- 焼津文化会館(焼津市)
- 講師
- ベースボールスピリッツ代表 奥村幸治
プロフィール
1994年、イチロー選手が210安打達成時に専属の打撃投手を務め"イチローの恋人"として知られる。田中将大投手が中学時代に所属した「宝塚ボーイズ」元監督。世界少年野球大会で日本代表チームを率い、3年連続世界一に。
第 2450 回
一流の指導者に学ぶ人材育成
私には大好きな指導者がいます。星野仙一さんです。
私は2009年から5年間、12歳以下世界少年野球大会の日本代表チームの監督を務めていました。アメリカでの世界大会に参加している時のことです。星野さんにこんな話を聞かせてもらいました。
「俺は母子家庭で育った。貧しかったから野球をしたいと言えず、友達のグローブを借りて野球をしていたら、母親から自分の働く社宅の草取りをしたらグローブを買ってあげると言われた。それから毎日、学校から帰ると草取りをして、全部抜き終わると母親が千円をくれた。お店に行くと、千円のグローブの隣に千五百円のものがあって、そのグローブが本当に良くて。お店のおじさんにお金を見せたら『千円のしか無理だね』って言われたけれど、いつまでも千五百円のグローブをはめて試していたら、おじさんが『兄ちゃん、それ持っていっていいよ』と言ってくれたんだ。俺な、こんなにも強い思いで野球をやりたくてやってきた。俺みたいな気持ちで野球をしている子がいたら教えてほしい。俺にできることがあったら、してあげたい」。
さらに星野さんは、「恵まれた環境で育った今の子どもたちが、立派な大人に成長するためには、いろんなことを経験しないといけない。この世界大会は野球だけではないぞ」と付け加えました。世界大会で子どもたちは、アメリカのお父さん、お母さんのもとで2週間ホームステイします。日本に帰国する時、日本の子どもたちは泣き崩れて帰れなくなります。星野さんは「この出会いだ。この出会いから、人は成長ができる。この出会いから、自覚や責任が少しでも芽生えてくれたら、それでいいと思う」と話してくれました。
また、大会にはこんな光景もあります。帽子を取って一礼してからグラウンドに上がったり、すべての道具を整頓して並べたり、監督やコーチの話を目を見て聞くのは、日本の子どもたちだけです。試合後にゴミ1つ落ちていないのは日本のベンチだけです。そんな光景を世界中のお父さん、お母さんたちが写真に撮るんです。私は世界大会で、日本の素晴らしさを感じることができました。日本に残すべき教育だと思います。
今後、AI(人工知能)が人間の知能を抜く時代がくると言われています。これからの時代を生きる子どもたちに必要なことは、明確な目標を持ち、その目標を強い気持ちで達成していける「主体性」を持つことです。
この「主体性」を培うにはどうしたらいいのでしょう。まず「考えさせる」ことです。例えば「1時間かかる事を、50分でやりましょう」と伝える。今の子どもたちは結果や答えをすぐに求めがちですが、それを伝えてしまっては本人を伸ばすことにはなりません。自分自身で考えて、成功も失敗も経験し、成長していくことが大切です。
大人のみなさんはぜひ、子どもが努力できること自体が素晴らしいことだと認めてあげてください。そして、達成感を味わいながら継続的に努力できるよう、導いてあげてください。