2025年11月16日放送
- 会場
- 蒲原生涯学習交流館(静岡市)
- 講師
- オノマトペ研究者 藤野良孝
プロフィール
1977年東京都生まれ。朝日大学保健医療学部教授。オノマトペの実態とその効能について多角的に研究。日々の暮らしの中でオノマトペを役立ててほしいと、書籍や講演などを通じて利用法の普及につとめる。
第 2458 回
なぜか買いたくなる 魔法の言葉
オノマトペはフランス語で、擬音語と擬態語を総称した言葉です。擬音語は「わんわん」といった、人や動物の声や自然の音を模写して表現したもので、擬態語は「キラキラ」といった、物事の状態や心情の様子を音に例えて表現した言葉です。
最近、もちもち食感のパン、麺類、スイーツが大人気です。これは単に食感の魅力だけではなく「もちもち」というオノマトペが、消費者の気持ちをぐっとつかんでいるからなんです。食品に限らず、自動車、ファッション、美容雑貨など、幅広い商品で使われているオノマトペの潜在的な力と、その効果についてお伝えします。
オノマトペの特徴のひとつは、短い言葉で瞬時に伝えることができる、ということです。「柔らかくて弾力があるチョコパン」よりも、「もちもちチョコパン」の方が、食感がすぐにイメージできて、食べてみたい、という気持ちになりますよね。一言で伝えられて、商品の良さが伝わりやすいのが、オノマトペの特徴であり強みです。
オノマトペを使う時には、何を足すかではなく、何を引くか、が最大のポイントです。例えば、スーパーのウィンナー売り場でこんな声かけをしています。「皮が程よい硬さで中の肉汁も上質ですよ」。でも、これだけ長いと頭に入ってこないし、商品の魅力が薄れてしまいます。ここから引き算をして、オノマトペを使った文章にすると、「パリッとして肉汁ジュワ~ッですよ」。さらに引き算をすると、「パリッ!ジュワ~ッですよ」となります。特に、「パリッ」とか「ジュワ~ッ」という、食べた時のみずみずしい音(シズル感)のオノマトペは、人の食欲を刺激する効果があります。
また、オノマトペは五感を刺激して、実際にその商品を使っている、食べているという気持ちになります。例えば「聴覚」。夏の暑い時に、「『りんりん』と音が鳴る鈴」と聞くと、音が想像できて、涼しくなります。次に「触覚」。「『すべすべ』『しっとり』になるクリーム」と言われると、肌の感触が想像されて、使いたくなりますよね。
ただ、オノマトペは何にでも使えばいいというわけではなく、商品の特徴にぴったり合うように、よく考えて使用することが大切です。
オノマトペは、言葉が短くて脳の情報処理が早く、感覚や五感に訴えかけて、人々の心をぐっとつかむ。そして、老若男女問わず誰もがイメージしやすい、そんな不思議な力を持っています。ぜひ皆さんがこれから、商品名を考えたり、あるいはキャッチコピーを作ったりする機会がありましたら、オノマトペを有効活用してみてください。