2025年12月14日放送
- 会場
- 聖隷クリストファー中・高等学校(浜松市)
- 講師
- 戦場カメラマン 渡部陽一
プロフィール
1972年静岡県生まれ。明治学院大学法学部卒業。学生時代から世界の紛争地域を専門に取材を続ける。戦争の悲劇、そこで暮らす人々の生きた声に耳を傾け、極限の状況に立たされる家族の絆を写真で伝えている。
第 2462 回
戦場のSNSとコミュニケーション
戦場カメラマンとして約33年間、世界中の戦場を自分の目で確認し、そこに暮らす人々の声を聞き、写真を撮り続けてきました。
現代の戦争は、ロボット・AI・人工知能が使用され、戦場の上空には24時間365日、無人機・無人ドローン・無人爆撃機が飛び回っています。もちろん武器や兵力は戦いの土台になりますが、それ以上に「情報を管理した側が、戦争を優位に整え、進めることができる」、これが特徴のひとつと言えます。
では、情報の持つ力とはいったいどんなものなのでしょうか?
戦場であるウクライナやパレスチナ、ガザなどでもネット環境があり、私たちと同じように携帯電話やパソコンからアプリケーション、SNSを使用しています。そこに暮らす人々だけでなく、取材をする僕たちカメラマン、そして最前線にいる兵士にとっても情報は重要なものです。
例えば、前線で激しい戦闘が終わってキャンプ地に戻ると、兵士たちはテレビ電話をつなげて、故郷にいる両親や子どもたち、恋人と話します。そうすると、タフで屈強に見える兵士たちが、突然ボロボロ泣き出したり、もう帰りたいと口にしたり、感情がむき出しになります。また、20歳前後の若い兵士たちは、次の戦場に行くまでのわずかな待機時間でも、自宅にいるようにネットでゲームをしたり、メールしたりしています。彼らと話をすると今どきの普通の若者で、自分の子どものようだと思ってしまうほどです。
情報があるからこそ、戦場にいても自分を保つことができる。また、食料が配給される場所や、避難経路を共有して、安全を確保することができる。いまや情報は人々にとって、衣・食・住と同じライフラインだと言えます。もう排除することはできないくらい、私たちは情報に支えられ、情報に守られているのです。
ただ、情報には恐ろしさとリスクも伴います。情報は生き物のようなもので、事実だけではなく、演出たっぷりのフェイクが浸透し、なにが本当かわからない状況になっています。こんな「情報の海」の中で、無意識のうちに自分にとって「心地の良い情報」に引っ張られていることがあるのです。
僕もカメラマンとして何度もフェイクニュースに騙されそうになりました。例えば戦争が起きた時、まるで映画のワンシーンのような光景の写真や映像がリアルタイムで入ってくる。それを見て、僕は即座に思いました。「こんなことがあるのか?ありえない、でもカメラマンとして自分もこれを撮影したい」。これは無意識のうちに情報に引っ張られている時の特徴で、この瞬間こそブレーキのスイッチが必要です。冷静に考えたら、33年間の戦場報道の中で、そんな映画のような光景は見たことがありません。「心地の良い情報こそ要注意」、これが、僕が伝えたい最大のメッセージです。
そして、発信する側が気をつけなくてはいけないことは、クリックする前に「ひと呼吸して間を置く」ということ。自分だったらどう感じるかを想像して、見る側に寄り添い、発信力を自分でコントロールする。情報は大切な力で便利だからこそ、その危険にしっかりと向き合って、自分や大切な人を守る責任を、あらためて自分の中に浸み込ませてほしいと思います。