2026年1月11日放送

会場
浅羽東コミュニティセンター(袋井市)
講師
スポーツ心理学者・博士 田中ウルヴェ京

プロフィール

ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリスト。米国大学院修士修了(スポーツ心理学)。慶應大学にて博士号取得(システムデザイン・マネジメント学)。慶應義塾大学特任准教授。トップアスリートや経営者など幅広く心理コンサルティングに携わる。一男一女の母。

第 2464 回
日本人ならではの結果の出し方

今は「先の見えない時代」と言われ、「こうなれば人生は成功だ」という決まった道が無くなってきました。それは悪く考えることもできるけれど、「自分なりの人生の作り方をしていい」という意味でもあります。つまり、「どんな結果を出し続けることが自分にとって幸せなのか」を自分で選び、作ることができるのです。

トップアスリートは、結果を出すための「心の作り方」を日常的に意識しています。諸外国の研究を集めて調べたところ、面白いことに「日本人ならではの結果の出し方」があるらしい、ということが分かってきました。

そもそも、結果とはなんでしょうか?例えば「試合で勝つ」、これは目に見える結果です。一方で、たとえ勝ったとしても、「自分の中では満足できていない、自分に負けた」と感じることもある。つまり、勝敗などにかかわらず、「自分のベストの力を出せたかどうか」、これもひとつの結果と言えます。

「ベストの力を出せたかどうか」という感覚は自己判断であり「主観」です。つまり結果を出すには、当日だけではなく、「毎日、どれくらいベストを出せたか」という「自己評価の習慣」が必要なのです。

例えば、アスリートなら「今日は腹筋を50回やる」という目標を立て、できたらチェックをする。これは仕事や子育てにも応用できます。「子どもが自分で意思決定できるようになるために、支えられるお母さんになる」といった目標を持っておくと、「今朝は寝不足で気分がよくなかったけれど、怒らずに子どもを送り出せた」という自己評価ができます。こうして毎日、自分の力をどのくらい出せたかを確認する。「自己評価」という言葉は「自分に厳しくする」と思われがちですが、大切なのは、「できたときに自分を褒める」という自己評価です。

ところが、自己評価を毎日続けても、本番でベストの力を出せる人と出せない人がいます。その差はどこかというと、「レジリエンス」が大事な要素として挙げられます。「レジリエンス」とは、困難やストレスに直面したときに「それでも、自分のベストを出すにはどうすればいいか」という方向にもっていける心のしなやかさのことで、「挽回力」や「回復力」を意味します。

この「レジリエンス」について、日本のトップアスリートから共通の話が聞かれました。困難に直面したとき、「つながること」が大事だと言うのです。何につながるのかというと、「家族」や「恩師」といった人とのつながりもあれば、「ご先祖様」「水の神」「ゴールの神」という人もいます。この感覚はどうやら日本人ならではのもので、「つながることで、『大丈夫だと思える』『温かい気持ちになる』『気付かせてもらえる』ことがある」ようです。

「自分からつながろうとする習慣を作る」。すると、勝つか負けるかは分からないけれど、自分のベストを出すことができる。それが、日本人ならではの「結果の出し方」のようです。根拠はないけれど、自分にだけは分かることがある。それは言い換えれば「心に軸を持つ」ということです。そういう人は自分で自分を幸せにする力を持っていると思います。

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