2026年4月12日放送
- 会場
- テレビ静岡(静岡市)
- 講師
- 総合内科専門医 おおたわ史絵
プロフィール
東京都出身。東京女子医科大学卒業後、
大学病院や地域開業医などを経て
現在は法務省 矯正医官を務める。
難関である総合内科専門医の資格を持ち、
多くの患者の診療にあたりながらメディアでも活躍中。
第 2477 回
塀の中の診察室
私は、2018年から法務省の矯正医官(プリズン・ドクタ―)として、「塀の中」で受刑者や被収容者の診療・健康管理を行う医師をしています。刑務所や少年院などの矯正施設には必ず医務室があり、医師が必要なのですが全然足りていません。現在、矯正医官は300人いるかいないか、日本にいる医師のたった0.08%ほどです。すごく珍しい仕事だということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
受刑者も当然、病気になったり怪我をしたりします。医者にとって病気を診る、治療することに関しては、場所がどこであっても、患者が誰であっても同じだと思いますが、「塀の中」の診察室では一般的な診察室と違う点がいくつかあります。
まず、診察机の上は常にきれいで、物がありません。絶対に置きっぱなしにしてはいけないものがあり、その1つがボールペンです。理由は、凶器になりかねないから。ボールペンを使った後は、必ず自分の胸ポケットに戻したことを確認しなくてはいけません。また、患者の座る椅子は太い鎖で柱などにつながれています。これは興奮したり錯乱状態になったりした受刑者が、椅子を持ち上げて暴れるのを防ぐためです。
そんな話を聞くと、怖い印象を持つかもしれませんが、私は矯正医官を始めてから8年以上、刑務所の中で危ないと感じたことはただの一度もありません。刑務所の中では必ず刑務官や看護師などがついてくれて、受刑者と2人きりにならないよう、安全対策をしてくれているからです。そのため、純粋に患者の病気を診る、治療するということに専念できます。塀の中は怖いだけではないことを知っておいてほしいと思います。
ここで議論になるのが、「罪を犯した人たちに医療が必要なのか」ということです。私自身も受刑者たちが犯した罪自体は許していません。ですが、治療をしなければならない理由があります。
例えば、受刑者たちには月曜から金曜まで工場で働く、といった刑務作業が科せられます。彼らは、その工場で働くことによって世の中に還元する役割も担っています。病気で寝たきりになったとしても、食事やおむつなどの日々かかる費用は大事な税金から捻出されるのです。ですから医者として、働けるだけの心と体を守り、健康的な生活の指導をする必要があります。
受刑者の中には、もともと生育環境が良くなく、両親の顔を知らない、義務教育を受けられなかった、という人もいます。懲役の義務を果たしながら、健康の大事さと人間らしい生活を教わっていくことで、再犯の抑止につながっていくかもしれません。心身ともに健康でその義務を果たせるよう、矯正医療は大切であり、意味があることだと思っています。