2026年4月26日放送
- 会場
- テレビ静岡(静岡市)
- 講師
- 総合内科専門医 おおたわ史絵
プロフィール
東京都出身。東京女子医科大学卒業後、
大学病院や地域開業医などを経て
現在は法務省 矯正医官を務める。
難関である総合内科専門医の資格を持ち、
多くの患者の診療にあたりながらメディアでも活躍中。
第 2479 回
古今エンタメを医学で斬る
私は子どもの頃から童話や小説、映画など、エンタメの世界が大好きでした。そんな私が大人になり、医者の目線であらためて古今のエンタメを見てみると、実は医学が元ネタになっているのではないか、というお話がたくさんあることに気付きます。
例えば、「座敷わらし」。山奥の古い家で夜中に目を覚ますと、部屋の隅に子どもが座っていて、何をするわけでもなく笑っていたり話をしたりする、あの妖怪です。
この座敷わらしを医学の観点から見てみると、認知症のひとつ「レビー小体型認知症」だったのではないか、という仮説が立てられます。これはレビー小体というタンパク質が原因で脳が誤作動を起こす認知症で、実際には存在しない人や物が見える「幻視」の症状が現れます。つまり座敷わらしは、この「幻視」が見せた子どもの姿なのではないか、と考えられるのです。他にも根拠がいくつかあって、座敷わらしの話が、認知症になりやすいお年寄りが多く住む地域で聞かれること。座敷わらしが悪さをした、という話がほぼないこと。実害がないことも、「座敷わらしが『幻視』だったからではないか」と私は考えます。
次に、アンデルセン童話の「雪の女王」。その中の、カイとゲルダという仲良しの幼馴染のお話です。ある日カイの目に悪魔の鏡の破片が刺さり、その瞬間からカイは人が変わったようにゲルダを睨みつけ、「お前なんか大嫌いだ」と言い捨ててどこかへ行ってしまいます。そのまま戻らないカイを探して旅に出たゲルダは、多くの困難を乗り越え、雪の女王のお城にいるカイを見つけ出します。カイは虚ろな目をしていましたが、ゲルダが流した涙で鏡の破片が洗い流され、カイは元の優しい少年に戻りました。
このお話を医学の観点から見ると、鏡の破片が刺さったことによる「角結膜損傷」だと考えられます。それはもう激しい痛みで、人に優しくできる状態ではありません。医療では、目に異物が入ったときの処置として生理食塩水で洗い流しますが、その成分は涙とほぼ同じです。つまり、「目の痛みで人が変わってしまったカイを、ゲルダが生理食塩水で治療して、カイは元の優しい自分を取り戻した…」というお話だと私は思っています。
こう聞くと、言い伝えや物語などで語られてきた怖いものや不思議な現象は、もしかしたら医学で証明できるのかもしれない、という気がしてきませんか?得体が知れない、分からないものだからこそ、人は必要以上に不安になったり、怖がったりしてしまいます。そういった意味で医学の進歩というのは、物事の真相や原因を明らかにして、人の不安を取り除く作用があると私は思います。
「もしかしたら医学と関わりがあるのかも」、そんなことを思いながら、古今のエンタメを楽しんでみてはいかがでしょうか。