2026年8月9日放送
- 会場
- テレビ静岡(静岡市)
- 講師
- 明治大学法学部教授 堀田秀吾
プロフィール
熊本県生まれ。シカゴ大学言語学部博士課程修了。
心理言語学、法言語学、コミュニケーション論を専門とする研究活動に加え、著書も多数。
テレビ・ラジオなど多彩なメディアで専門家としての視点を発信している。
第 2494 回
ことばのチカラ
「私たちは、ことばによって物事を認識している」と言えるほど、「ことば」と「認識」には密接な結びつきがあります。
パプアニューギニアにダニ族という部族がいます。彼らにとって色を表す言葉は「濃い」と「薄い」しかなく、ピンクや紫などの中間色の区別がうまくできないそうです。ところが、彼らに「この色は『ピンク』というんだよ」と教えると、認識できるようになります。つまり「ことば」によって「認識」が変化したということです。物事の存在自体や知覚そのものは普遍的ですが、物事をどのように区別するか、どこに着目し、どこを無視するかは、「ことば」によって変化するのです。
実際に、「ことば」によって「認識」に大きな差が出た実験を紹介します。
【実験1】バスケットボール選手を見てもらった後に、①「どれくらい背が『高かった』ですか?」または②「どれくらい背が『低かった』ですか?」と質問したところ、①と②の答えの平均には、約30cmの差があった。
【実験2】頭痛の頻度について、①「『頻繁に』頭痛になりますか?どれくらいの頻度でなりますか?」または②「『たまに』頭痛になりますか?どれくらいの頻度でなりますか?」と質問したところ、①の場合は平均で週に2.2回、②の場合は平均で週に0.7回と答え、3倍以上の差があった。
このように、「ことば」ひとつで判断や記憶が大きく変わってしまうのです。
「ことば」を使って、自分の感情をコントロールすることもできます。
例えば、誰にでもイライラ・モヤモヤしてしまう時ってありますよね。その原因は、自分の理想や義務と現実の間にギャップがあるからです。このイライラ・モヤモヤを解消する一番早い方法は、まず現実を受け止めること。その上で効果的なのが、『メンタルディスタンシング』という心理学の考え方です。イライラ・モヤモヤすることがあったら、「このことで、自分は3年後も怒っているかな?」と考えてみてください。遠い未来の視点で物事を捉えることで、ストレスやネガティブな感情が軽減されます。
また、「普段から他人を貶めたり、批判するようなネガティブなことばを発している人は、認知症のリスクが3倍になる」という研究結果もあります。脳は自他を区別しないという特徴があり、他人に対して攻撃的なことばを使うと、自分が攻撃された時と同じダメージがあると言われています。ネガティブな言葉というのは想像以上に脳と心を傷つけているのです。
私たちは「ことば」によって物事を認識し、世界を切り取っています。より素敵で彩りに満ちた世界になっていくよう、「ことばのチカラ」を理解し、どのようなことばを使っていくのかを考えることが大切です。