2026年9月27日放送
- 会場
- 京都大学iPS細胞研究所(京都府)
- 講師
- 山中伸弥、田中ウルヴェ京
プロフィール
■山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所 名誉所長・教授)
人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製成功を発表。
2012年、50歳でノーベル生理学・医学賞を受賞。
■田中ウルヴェ京(スポーツ心理学者)
1988年、ソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダルを獲得。
アメリカの大学で心理学を学び、スポーツ心理学者として活躍。
第 2501 回
放送2500回記念 50年の軌跡 ~結果と言語化~
テレビ寺子屋放送2500回を記念して、50歳でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん、そして50年前にシンクロナイズドスイミングと出会ってメダリストとなった田中ウルヴェ京さん、お二人の人生50年の軌跡について伺います。
【結果】
山中:
私にとっての結果とは、研究で病気を治すことです。iPS細胞をつくることはできましたが、それだけでは終わりではありません。実際に患者さんを治療し、多くの人の役に立って初めて結果と言えると思っています。私たちはiPS細胞をつくりますが、それを神経や心臓などの細胞に変え、患者さんへ届けるのは別の研究者や医師たちです。研究は一人ではできません。多くの人が関わって初めて成果になります。もしかすると私の現役中に達成できるかもしれないし、次の世代に託すことになるかもしれません。
田中:
研究の素敵なところは、そこかもしれませんね。私は48歳で博士課程に入り研究を始めました。その時に、祖父が残した医学論文を調べに行ったんです。何十年も前に書かれた論文が今も残っていて、「結果は一人で作るものではなく、積み重ねられていくものなんだ」と感動しました。結果とは、自分一人で成し遂げるものではなく、未来へつながるものなんですね。
山中:
そう思います。若い頃は、ビジョンを達成することこそが大切だと考えていました。でも人生経験を重ねる中で考え方が変わりました。たとえばオリンピックで金メダルを目指して努力しても、実際に手にできるのは一人だけです。では、それ以外の人の努力に価値がなかったのかというと、決してそんなことはありません。努力した時間は決して無駄になりません。その過程で人は成長します。ですから今は、結果だけでなく、そこへ向かうプロセスそのものが大切だと考えています。
田中:
その考え方にはとても共感します。私自身も「昨日より少しでも成長できた」と感じられることが楽しいんです。以前は頑張り過ぎなのではないかと悩んだこともありましたが、自分が目標に向かって進んでいること自体に意味があると思えるようになりました。
山中:
目標に向かって本気で努力した経験そのものが人生の財産なんです。結果に届く人もいれば届かない人もいる。でも、その過程は誰からも奪われません。今はそう考えています。
【言語化】
田中:
私は心理学に関わる中で、いつも言語化の難しさを感じています。人の気持ちや経験を言葉にした瞬間、本当はもっと豊かなものが、少し平面的になってしまう気がするんです。山中先生が言語化で気を付けていることはありますか?
山中:
私はアメリカ留学中に、「研究は実験が50%、伝えることが50%」だと教わりました。当時の私は、良い実験結果さえ出せば自然に評価されると思っていました。でもそれは違ったんです。どれだけ素晴らしい発見でも伝わらなければ意味がありません。
田中:
言葉は相手に届いて初めて意味を持つんですね。言語化というと、私は子どもの頃から日記を書いています。感情や考えを言葉にして書いていくと、不思議と頭の中が整理されて、次に何をすればいいのかが見えてくるんです。言葉にすることは、自分自身を見つめることでもありますね。
山中:
ビジョンも同じで、言葉にすることが大事です。口に出して人に伝えることで、自分自身も忘れずにいられます。言葉にすることで覚悟が生まれるのだと思います。