2026年11月8日放送

会場
テレビ静岡(静岡市)
講師
作家・クレヨンハウス主宰 落合恵子

プロフィール

1945年栃木県生まれ。
作家として「違いから学び合える社会」をテーマにした著書多数。
子どもの本の専門店「クレヨンハウス」などを展開し
総合育児教育雑誌「月刊クーヨン」の発行人。

第 2507 回
私を生きる~声を出せる居場所づくり~

私は2023年に肺がんと診断され、2025年に治療を終えました。いろんな悩みを抱えながらも、「がんは私の一部であって、私は私なんだ」という気持ちで自分で決断をしながら、がんと向き合ってきました。患者という立場になって感じたのは、「居場所」があまりに少ないということです。私の言う「居場所」とは、「あるがままの自分でいられる場所」です。自分の喜怒哀楽を隠すことなく、声に出せる場所のことです。
 
私もそうでしたが、がんの患者は声をひそめてしまうことが多いと感じます。「他の町へ行けば話せるのに、自分が住んでいる町では言えていない」という話も聞きました。それは私たちの社会が、がんをどう位置づけてきたのか、という背景もあるのでしょう。また、がんの治療が進む中で、髪が抜けることがあります。そこで悩む方がとても多い。そのことに対してもっとオープンに話せる場ができたら、患者の心は違ってくるのではないでしょうか。治療に関する話はもちろん大切ですが、そうではない話も含めて気軽に話せる相談室のような、感じたことを素直に声に出せる居場所が必要だと感じています。
 
1つの考え方として、「居場所」というのは空間としての場所だけではなくて、一冊の本でもいいと私は思います。5歳の時に読んだ本を開いて「あの時、お父さんとお母さんはこうだったな」と思い出すことができる。これも自分にとっての「居場所」です。たくさんではなくても、自分にとってかけがえのない大事な記憶があれば、それを辿って、幸せを指先でつかむことができるのではないか、そんな気がしています。
 
今の社会は「疲れた」と言いづらい部分があります。通常の人間関係の中で「疲れた」と言うと、弱いと判断されてしまうことがあるからです。または「相手も疲れているだろうから言えない」という場合もある。でも、もしかしたらあなたの「疲れたね」にホッとする人もいるのかもしれない。自分の正直な思いを言葉にするためには、相手が同じような状況であったり、言葉にした思いをそのまま受け止められるような関係性を築くことが大切です。「つらい」という言葉を飲み込まざるを得ない人たちが「縁」という形で出会い、関わっていける。そんな「居場所づくり」を私の人生最後のミッションにしたいなと思っています。
 
新しい社会を作っていくのも、新しい医療を作っていくのも、一歩踏み出すことができるのは、自分たち。一人一人が動かない限り前には進まない、という思いで私は私の人生を生きています。みなさんもどうか自分の居場所で、自分の声で語ることを大切にしてください。

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