
2024年11月3日放送
- 会場
- 蒲原生涯学習交流館(静岡市)
- 講師
- 弁護士 菊地幸夫
プロフィール
中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。
テレビでの法律相談やコメンテーターとしても活躍。
各地のトライアスロン大会へ出場するなど、弁護士業務の傍ら、体力作りにも勤しんでいる。
第 2405 回
少年の躓き
私が弁護士活動の中で力を入れてきた、「少年の非行事件」についてお話しします。
いろんな悪いことをして、地域の人からも周りからもなかなか受け入れてもらえない、16、17歳の5人組少年グループがありました。1人が気に食わないことをすると、他の4人は頭にきてその子をボコボコにする。でも、翌日からはまたみんなで仲良く遊ぶ。そんなことを繰り返していました。他に受け入れてくれる人がいなかったのです。
ある時、その仲間内のひとりに激しくやりすぎてしまいました。騒ぎに気づいた近所の方が110番通報し、全員現行犯逮捕となりました。
私はうち1人の少年の国選弁護を担当することになりました。面会に行きましたが、最初は「捕まったのはついてなかった、被害者が悪いんだ」と、会話もうまくいきません。本の差し入れにも「そんなもん読めるか」といった感じでした。
でも、面会を重ねるうちにだんだん心を開き話もできるようになってきて、「本をもっと差し入れしてください」と言ってきたりと、態度にも変化が出てきました。反省もだいぶ深まり、「かなり更生が期待できる」ということで、少年鑑別所から一度外へ出して様子を見る「試験観察」が認められ、私の知り合いの解体業の会社で2カ月働けることになりました。
やったこともない解体業、きつかったと思います。途中で一度逃げ出しましたが、何とか2カ月頑張り通しました。面会する中で私は少年の頭の回転が早いと感じ、「今まで勉強してないだろ。ちゃんとやったらいい点取れるよ。この先結局はこの社会に戻ってくるんだから、定時制に行って勉強してみないか?」と、何度も伝えていました。
そして、いよいよ審判(裁判)の日を迎えます。裁判官が処分を言い渡す時、彼の目をじっと見て、「私は一回君を信用する。社会に戻りなさい」と伝え、「保護観察」になりました。
そこで彼に関する私の仕事は終わりましたが、何年か経ち一通のハガキが届きました。差出人はその彼で、「菊地さんが言った通り定時制に行きました。そして、この春、僕は大学に合格しました。しっかりした社会の一員になれるようにがんばります」と、書かれていました。嬉しかったですね。
これは私が担当した少年事件の中でもうまくいった例ですが、彼の頑張りと、「君を信頼しよう」という裁判官の言葉、さらに「頭がいいぞ、勉強してみろ」と伝えたことが大きかったのだと思います。大人から「君を信頼する」「勉強したらいい点取れるぞ」なんて言われたことなどなかったのではないでしょうか。
子育ては難しいと思いますが、褒めたり、ある程度信用して見守ってあげるというような大人の姿勢が子どもにどれだけ影響を与えるのか、改めて勉強させられた事件の一つでした。