
2025年1月26日放送
- 会場
- 原地区センター(沼津市)
- 講師
- スポーツ心理学者・博士 田中ウルヴェ京
プロフィール
ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリスト。米国大学院修士修了(スポーツ心理学)。慶應大学にて博士号取得(システムデザイン・マネジメント学)。慶應義塾大学特任准教授。トップアスリートや経営者など幅広く心理コンサルティングに携わる。一男一女の母。
第 2416 回
人から助けてもらう力
皆さん持っている「人を助けてあげる力」。「力」と言わないまでも、ちょっと困っている人がいたら助けてあげたり、何かしてあげたという経験ありますよね。けれど、実は「人から助けてもらう力」が人生においてとても大切なんです。「助けてあげる」じゃなくて「助けてもらう力」、「受援力」とも言われます。
例えば、初めて社会に出た「新入社員」と呼ばれる人たち。
何を聞いていいか、「分からない」と言っていいのかどうか分からない。もっと言えば、何が分からないかも分からない。要は経験がない時、「助けてください」すら言えない。助けてもらっていいことなのに言いにくいみたいなことありますよね。
あとは子育てで誰かの手が必要だなという時に、「これやってもらえますか?」と言うのは少し勇気がいる。お金を支払って助けてもらうことはできるんだけど、「あなたには何もしてあげられないが、私にだけこれをしてもらいたい」みたいな時はますます言いにくい。「一人でやらなきゃいけない」「私が頑張らなきゃ」と感じることあると思います。
私はよくメンタルトレーニングという立場でアスリートとご一緒するのですが、実はこのアスリートと呼ばれる人たちにとって、引退後に「人から助けてもらう力」が必要だという研究がたくさんあります。
スポーツは自分のゴールが他人からも見えやすい。見えやすいゴールを持っている時は、助けてもらいやすいと言われています。でも引退するとそのゴールがなくなる。選手たちは、どのような人生を選択すればいいのか、人生をどのように作っていけばいいのかと悩むのです。選択が多すぎる状況って、人はとても困るものです。これはアスリートに限らず、退職後の人生の作り方にも共通することだとお分かりいただけると思います。
何で悩んでるかわからない人には、周りもどうやって助けていいかわからない。その時に「助けてもらう力」が必要になる。
まずやってほしいのは、「知らない自分を知ってみよう」ということです。
自分の領域の中ならば、助けを求める力がある人が多いと思います。だからこそ、困ったときには自分のことを知らない領域の方に「私はどう見えますか」「助けてください」と聞いてみる。自分が普段生きている領域じゃない、全然違う職種や生き方の人に聞いてみるっていうのがコツです。少し俯瞰してみると、自分がどんな人間かがわかるようになります。「助けてもらう力」というのは、人生を作るときに自分を客観視できる素敵な力です。
そしてもう一つ。これは助けてもらい続けるとだんだんわかってくるものですが、人から助けてもらうことを増やすと、「助けてもらう力」が付き、「助けてあげる力」も増す。助けてもらうって申し訳ないなぁなんて最初は思っていたのに、助けたり助けられたりの間柄になっていく、こんな素敵なことないですよね。
「助けてもらう力」は生きていくうえで必要なものだと研究でわかっています。人から助けてもらう練習をしてみましょう。