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過去の放送

過去の放送

2016年12月18日放送 平野啓一郎さん(第2013回)

会場
常葉学園(静岡市)
講師
小説家 平野啓一郎

講師紹介

1975年生まれ。北九州市出身。
1999年、京都大学在学中に「日蝕」で芥川賞を受賞。
2016年刊行の「マチネの終わりに」は
20万部を超えるロングセラーとなり、映画化も決定。


ポイント第2013回「運命と自由意志」

職業柄よく本を買いますが、忙しくて本屋に行けず、

ネットショッピングで買うこともあります。

すると一度買った本の傾向から、

次には同じような本が出るとリコメンドのメールが来ます。

「決壊」を書いたとき、小説の中でもリアリズムを追求しようと、

その事件が起きた日付の天気を調べるために

気象年鑑を買って小説に反映させました。

するとその時からしばらく天気に関する本のリコメンドが来るようになりました。

本に限らず、僕たちの買い物の傾向がデータとして蓄積され、

いろいろな商品の情報が届きます。それを見ているうちに欲しくなって、

ついボタンを押して購入してしまうこともあります。

そうして商品が手元にやってきますが、

果たしてそれを自分は本当に欲していたのか、

初めから買いたいと持っていたのかはあいまいです。

20世紀はオートメーション化が進み、

流れ作業のようにものが作られていく時代になりました。

僕たちが直面しているのは、消費自体がオートメーション化しているということです。

広告を見ているうちに買ってしまう、生産ラインから個人が購入するまで、

自動的に行われる。購入データは次に生かされて一連のものになってゆく。

昨今、様々な場面でこれまで人間が担ってきたことを

人工知能やロボットがやってくれるようになりました。

車の運転にしても、自動運転システムが出てきて、

人間が自由に運転したいと言っても、もし事故でも起こせば、

やはり自動運転にしないからだと言って許されなくなるのかもしれません。

そうして人間の自由が失われていくことは怖い気もしますが、

いやなことを押し付けられているのでもなく、便利で歓迎すべきものかもしれません。

一体どこまでが自由なのかアンビバレントな状態にあると言えるのです。

2000年代前半は、新自由主義的な社会の雰囲気の中で、

自己責任論がメディアでは盛んに語られました。

また、勝ち組負け組という言葉も生まれ、

それは企業だけでなく、個人にも当てはめられました。

勝ち組は努力して頑張ったのだから当然で、

そうでない人は自業自得だと言う風潮がありました。

しかし、テクノロジーに人間が引っ張られていく時代、

未来がどう進んで行くのかが見えにくい時代に、

努力だけでは解決できない複雑な要素も絡んでいることがあります。

ですから、起きてしまったことは運命的で仕方のないことだったというまなざしが

必要ではないかと思うのです。

自己責任として自分や他人を責めることからの解放も必要で、

決してシニシズムでもない、根性論でもない目配せをすることが

大切ではないかと思います。

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