2017年4月30日放送 こんのひとみさん(第2031回)
- 会場
- 菊川文化会館アエル(菊川市)
- 講師
- 絵本作家・シンガーソングライター こんのひとみ
講師紹介
息子のために作った子守唄「パパとあなたの影ぼうし」が
反響を呼び2001年にメジャーデビューアルバムをリリース。
学校や福祉施設などでの「出前ライブ」は2000回を超える。
絵本作品に「こぐまとめがね」(金の星社)など
番組で紹介した本
「ありがとさん」 作:こんのひとみ 絵:いもとようこ (金の星社)第2031回「ありがとさん」
ある介護施設の介護士さんから1通の手紙をもらいました。
そこには1つの奇跡が綴られていました。
ご老人の集まる施設にはいろいろな方たちがいらっしゃいます。
職員を呼びつけて叱責することも
コミューニケーションが取れていればいいのですが、
だんだんと感情が高ぶってきて怒鳴ったり罵倒したりするようになると、
新人の介護士さんなどは胸が苦しくなってしまいます。
でも、私たちの施設にはさりげなく間に入ってくれる
1人のおばあちゃんがいました。
"怒りんぼさん"が怒鳴っている時、
そのおばあちゃん(仮名:田中さん)は、「何かありました?」
「いいことをおっしゃっていたようだから私にも聞かせてください」と間にすっと入る。
そして、「それはおっしゃる通りですね」とうまく話を合わせながら
「じゃ、私がここからは聞くからね」と介護士を上手に解放してあげていました。
"怒りんぼさん"のほかにも、感情が豊かで同情心が強く、
すぐに涙がぽろぽろ出てきてしまう"泣き虫さん"のおばあちゃんもいましたが、
そのおばあちゃんが家族のことで泣きながら
「こんなに生きてきても寂しい」と言うと田中さんは、
「そりゃそうよ、私も。」などと一緒に目を真っ赤にして泣いていました。
田中さんは何も解決してくれるわけではないけれど、
いつもうなずいて泣いてくれて柔らかい気持ちにさせてくれるのです。
そうやって施設の職員を含めてみんなが田中さんに助けてもらっていました。
でも事情があるのか、訪ねてくる人もなくいつも一人ぼっちだったのです。
施設にはいくら教えても言葉を話さない九官鳥がました。
その九官鳥が田中さんの唯一の話し相手だったのかも知れません。
11月にしては寒い雪の降る日のこと、
田中さんは突然施設内で倒れそのまま逝ってしまいました。
皆で集まって、せめて思い出話をしようとしましたが、誰も彼女のことを知りません。
思えば皆自分の話を聞いてもらっていただけでした。
皆ですまない気持ちになっていると誰かが、
田中さんが好きだったという「きよしこの夜」を口ずさみ、
やがて皆で合唱になった時、
その九官鳥が「ありがとう、ありがとう」と初めて口をきいたのです。
まるで田中さんが「いいんですよ、私も楽しかったのですよ。ありがとう」と
言ってくれているように感じたのです。
この実話が絵本を作るきっかけになりました。