2020年7月26日放送 小菅正夫さん(第2189回)
- 会場
- テレビ静岡(静岡市)
- 講師
- 札幌市円山動物園参与 小菅正夫
講師紹介
1948年北海道生まれ。
北海道大学獣医学部卒業後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。
飼育係長、副園長を経て1995年園長に就任。
現在は札幌市環境局参与円山動物園担当。
第2189回「もう一度届けたいメッセージ ~動物が教えてくれたこと~」
【オランウータンの子育て】
リアンというメスのオランウータンがいました。
リアンは台北の動物園で生まれて、若い頃、旭山動物園に来ました。
広島からオスを連れてきて繁殖を試み、赤ちゃんが生まれました。
ところが、リアンはヘソの緒が付いたままの赤ちゃんを放置して、
おっぱいをあげませんでした。
出産を理解できず、パニック状態だったのです。
ここからが飼育係の頑張りどころでした。
リアンのおっぱいに赤ちゃんをつけ、三日三晩、一緒に過ごしました。
すると、リアンは突然赤ちゃんを抱いて、自分のベッドに連れて行きました。
母性本能にスイッチが入ったのです。
「親が子を抱き、おっぱいをあげる」ということを、やっと理解したのです。
リアンの2回目の出産は、お客さんの前でした。
今度は見事に親の仕事をこなし、その様子を最初に生まれた子が必死に見ていました。
実は、リアン自身は末っ子で、子育てを学習する機会がなかったのです。
よく子育ては本能だといわれますが、実は本能ではなく、学ぶ機会が必要だったのです。
【オオカミの絆】
私が旭山動物園に着任した時、ジョンとリカというオオカミの夫婦がいました。
あるときメスのリカにがんが見つかりました。
すでに手遅れで、3度目の入院の時に死んでしまいました。
するとオスのジョンは、リカの小屋の前で座り込み、ずっと動きません。
その後、食欲もなくなり、とうとう立てなくなってしまいました。
しかし検査をしてもどこも悪くありません。
こうした中、飼育係が留守をすることになり、その間、私が看ることになりました。
点滴をしたり寝返りをさせたりして3日が過ぎました。
このとき既にジョンは息をする以外、何も反応がない厳しい状態でした。
3日後に飼育係が戻り、彼が「ジョン」と声をかけると、
ジョンは耳をピクリと動かして、必死になって上体を起こし、
やがて「ウォーン」という声を出してそのまま息を引き取りました。
オオカミは、夫婦が愛情で結ばれ、
人間とも心を通わせることが出来る数少ない動物なのです。