2021年8月 1日放送 武田数宏さん(第2241回)
- 会場
- 雄踏文化センター(浜松市)
- 講師
- 伊勢青少年研修センター所長 武田数宏
講師紹介
1958年福島県生まれ。大学卒業後、修養団へ。2007年から伊勢青少年研修センター所長を務める。企業や学校の講演会では、命・家族・生き方など、当たり前の中にある大切な本質を伝えている。
第2241回「つつまれて育つ」
「良い天気」、「悪い天気」と言いますが、天気に良いも悪いもありません。
自分の都合で良し悪しを決めているのかもしれません。
私は伊勢で仕事をしています。
伊勢の神宮さんにはたくさんの方がお参りにみえます。
伊勢の人たちは昔から「おもてなし」の心でお迎えしています。
例えば、雨の日には「お清めの雨で良かったですね。」
そして晴れの日には「日頃のご精進が良いからですね。」
伊勢青少年研修センターでは夏休みに2泊3日の研修を開催しています。
東京の友人の孫、たかし君は小学2年生と3年生で研修に参加してくれました。
友人から「たかしは伊勢から帰るとしばらくは履き物をきちんと揃えてくれるけど、
すぐに元に戻ってしまって履き物を揃えられない。もっと長続きするように言って欲しい。」
と頼まれました。
その後、たかし君と2人きりになる機会があり話をしてみました。
両親のケンカでさびしくなることがある...。
そこで私は、お父さんとお母さんが仲良くなるおまじないを教えました。
左の履き物はお父さん
右の履き物はお母さん
歩くときは離れているけど
休むときはいつも一緒
たかし君はそれから1ヵ月、そして3ヵ月経っても履き物を揃えているそうです。
3ヵ月(みつき)頑張れば「身に付き」ます。
たかし君は自分のためには続かなかったけれど、
お父さん、お母さんのためにと思って頑張っていました。
私が高校生の頃、人生のターニングポイントになった話です。
ボランティアで訪れた養護学校で小学5年生の少年に出会いました。
彼は野球が大好きで将来プロ野球選手になりたいという夢がありました。
ある夏の日、彼が「お兄ちゃん空を見に行こう。」と秘密の場所に誘ってくれました。
校舎の裏山、すぐ近くでしたがゆっくり、ゆっくりと登っていきました。
彼に促されて山頂の芝生に寝転ぶと、周りの木々に切り取られて丸く広がる空が見えました。
突然、彼は空を見上げたまま言いました。
「お兄ちゃん、僕の病気治るよね?」
「僕、プロ野球選手になれるよね?」
私は彼の言葉に答えることができませんでした。
手を握って一緒に泣くことしかできませんでした。
その当時、進学か就職か、進路をめぐって悩んでいた自分、
いろいろいい訳ばかりだった自分にとっては大きな衝撃でした。
その時こころに浮かんだ言葉があります。
「苦しいから逃げるのではなく、逃げるから苦しいのだ」
もう少しだけ頑張って前に進んでみようと思わせてくれたのが彼との出会いでした。
自分をありのままに受け入れて、認めてくれる家族や仲間に
やさしく包まれていることに気づいたとき、「自分はしあわせ」と思えるのではないでしょうか。
私たちは「誰かにつつまれて育てられている」そんな風に思います。