2012年2月18日放送 内藤いづみさん(第1775回)
会場 | 広見小学校(富士市) |
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講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
会場 | 広見小学校(富士市) |
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講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
甲府の小さなクリニックで、風邪や高血圧の患者さんの外来診療をする傍ら、
ガンが進行してしまっている患者さんを支援する、在宅ホスピスケアを行っています。
20年前はがんの患者さんには告知がなく、家族に知らせるのが一般的でした。
聞いた家族は「本人には言わないでください、自分が引き受けますから」と言って、
がんなのにがんでないと伝えていたのです。
私がイギリスで見たホスピスでは、重いがん患者の方々が明るい表情で笑いながら過ごしていました。
私が「あなた達はどうしてそうなれるのですか」と聞くと、
患者さんたちは「ここにいれば痛みは緩和してくれるし、望めば最後まで自分の家ですごすことができます。
私たちは安心して暮らしていて、幸せなんです」と話してくれました。
私は目からうろこが落ちる思いでした。
研修医のころ私が見た、がんの患者さんは、病室のベッドの中で天井を見ながら
「一体何が起きたんだろう」とばかり、疑問と不安の中で過ごしていました。
それではいけないと、日本に帰ってからホスピスの啓蒙活動を始めました。
ある時、40歳代の患者さんが私の外来に来ました。
その方は、私の講演を聞いてくれていて、こう言いました。
「先生、がんになっても痛みませんと言いましたね。
それと、私の病気のことは私に言ってください。
前の先生は私に言わず、妻に言いました。でも、私の人生ですから」
その患者さんはやがてがんが脳に転移して、私は悩みながらもそのことを本人に伝えました。
すると彼は「ありがとうございます。先に言ってくれてよかったです」と言いました。
そして、その年の誕生日には、病室に家族が集まり、ワインで乾杯しました。
その患者さんは涙を流しながら、娘さんや奥さんと抱き合い、「君たちは僕の宝物だよ」と言いました。
その彼に私は「あなたが天国に行っても私はあなたの家族と友達でいます」と約束し、
亡くなったあと、プロのピアニストを目指していた娘さんに、私のホスピス講演会でピアノを弾いてもらいました。
そのコラボレーションはホスピスケアのご褒美だったと思います。