2015年11月 1日放送 内藤いづみさん(第1958回)
会場 | 大須賀中央公民館(掛川市) |
---|---|
講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
会場 | 大須賀中央公民館(掛川市) |
---|---|
講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
この20年間、在宅ホスピスケアという医療の実践をしてきました。
最近ではだんだんとみなさんの耳に届くようになりましたが、
20年前には日本ではあまり知られていませんでした。
この20年の間に日本は変わり、社会の在り方も変わりました。
都会でも田舎でも、一人で暮らす人が増えましたし、
老老介護の人も増えました。
家族が離れて暮らしていて、
何か困ったことがあれば来るということも多くなりました。
でも、在宅での看取りには家族が欠かせません。
家族の力はとても重要なのですが、
それが薄くなってしまったのでしょうか。
私が一番好きな歌集は万葉集です。
その中の山上憶良の歌に「銀(しろがね)も金(こがね)も玉もなにせむに
勝れる宝子にしかめやも」というのがあります。
どんな金銀財宝も子にはかえられないとう歌ですが、
日本人というのは、1200年も前にこんな歌を詠むような民族だったのです。
憶良は子供がとても好きでおそらく沢山子を作ったのでしょうが、
当時は疫病などで、子供が生まれてもすぐに死ぬことが多かったのです。
子供が死んだときに憶良が黄泉の使いにあてて詠んだ歌があります。
それは、「この子はまだよちよち歩きだ。
1人で黄泉の国に歩いて行けない。
あなたに供物を沢山差し上げるから、
どうかこの子を黄泉の国までおんぶして連れて行って下さい」という歌です。
今、日本では先端技術が進歩して
世界一の早い乗り物も出来るかも知れません。
でも勘違いしないでください。
1200年前の憶良の歌を振り返ったときに、
私たちが家族を思う気持ちは1000年やそこらで
何も変わらないということに気付くはずです。
私の出会った患者さんたちは、
病院でいろいろなことができない人たちです。
その方たちの心がくじけないはずがない、悔しい、
そして家族を残して行けない、そう思うはずです。
でも、わたしはそのことから目を背けないで下さいと言います。
苦しんで、どん底まで落ちた時に、
心というのは少しずつ浮かび上がってくるものだと、
ホスピスの勉強をする中で教わったからです。
浮かび上がった時に見えてくるのは、周りのものです。
それは懐かしい歌だったり、信仰だったり、友達だったり、家族だったりします。
自分が一人では生きて来られなかったこと、
自分を支えてくれたものに気付けば、前よりももっと強い自分になり
道が開けるということを患者さんたちから学びました。