2021年3月 7日放送 内藤いづみさん(第2220回)
会場 | 沼津市民文化センター(沼津市) |
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講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
会場 | 沼津市民文化センター(沼津市) |
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講師 | 在宅ホスピス医 内藤いづみ |
講師紹介 | 1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。 |
エステサロンに行ったときのことです。
「エステで若返りはできません。でも老化をスピードダウンすることはできます。」
と言われました。
それ以来、私はアンチエイジングではなくエンジョイエイジング、
老いを楽しもうと思っています。
江戸時代の儒学者・貝原益軒は『養生訓』という健康の指南書を残しました。
この中で貝原益軒は「心は身体の師匠である。」
長寿を全うするには身体の養生だけでなく、心の養生も大切だと説いています。
いまを生きる私たちに穏やかにゆっくりと老いを楽しむことを教えてくれています。
患者さんとの会話で印象に残っている言葉があります。
外来で通院していた95歳の男性。
矍鑠(かくしゃく)としてひとり暮らし、
とても元気な方だったので健康法を聞いてみました。
すると「運です。」とひと言。
この方は戦争を体験していて、
戦地で自分の横にいた友人が撃たれて亡くなり自分は生き残った...。
こうした体験を乗り越えていくうちに
寿命は神様から与えられたものだと思うようになったそうです。
だからこそ自分の命、そして魂を運ぶ身体を大切にしていく
『養生訓』というのはとても大事だと感じました。
もうひとつ大事だと思うのは「人とのつながり」です。
新型コロナの時代、いまは施設に入っているお年寄りや
遠くに住む友人に会うこともままならない状況です。
ですからコロナ後の新しい時代に人とのつながりをどのように作り出していくか?
これはみなさんにもぜひ考えていただきたい宿題です。
もうひとり患者さんの言葉でいいなと思ったのは90歳近い男性の言葉です。
その方は認知症で耳も不自由になっていました。
自身の老後をどう支えてもらうのか、ケア会議に参加した後、
「ありがとう、いい塩梅でお願いします。」と涙を流しました。
『いい塩梅』というのはパーフェクトでなくていい、
いろいろのりしろがあってもいいからほどよく、やさしくという意味です。
いつも迷いながら落としどころをみつけて折り合いをつけていくのが
私たちの看取りの医療です。
先日も33歳の女性の患者さんを看取りました。
彼女は一生懸命生き抜きました。
その姿を思い返すと長寿の運命を与えられた人は老いを不安に感じる必要はありません。
むしろ感謝して穏やかな日々を楽しんでいただきたいと思います。