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2022年7月 3日放送 為末大さん(第2287回)

会場 テレビ静岡(静岡市)
講師 元陸上選手 為末大
講師紹介

1978年生まれ。世界陸上の男子400メートルハードルで銅メダルを2度獲得。五輪に3度出場。動画プラットフォーム「為末大学」の学長を務めるほか、スポーツと社会貢献のために幅広く活躍。

第2287回「人を育てる言葉」

デジタル時代になって「知識」はネットワーク上で手に入るようになりました。
こうした時代に人と人が向き合う必要性、それは「気づき」を与えるということだと思います。「気づく」というのは今まで見てきたものとは違う見え方をした瞬間。腑に落ちること、自分の内側から出てくる感覚です。それは他人に押しつけられるものではありません。親は子どもが気づく瞬間を待つしかありません。そして気づきを促すための言葉とコミュニケーションが大切だと思います。
息子が小さい頃、目の前に犬が歩いてきて「あれがわんわんだよ」と教えました。次に猫を見たとき息子は「わんわん」といいました。「いや、それはにゃんにゃんだよ」と教えると、息子は不思議そうな顔をしました。実はこの瞬間の「推論」がとても大事です。「一体どこが違うのだろう?」身体の大きさや顔、様々な違いを考えます。それぞれの特徴が腑に落ちた時、ぼんやりとした生き物が「わんわん」と「にゃんにゃん」に分かれます。こうして言葉を覚えてうまく使えるようになると、世界を正確に、そして立体的に理解できるようになります。
もうひとつ大事なことは子どもに何か聞かれたときに、「何でだろうね?」と一緒に考えることです。これはスポーツのコーチングも同じです。選手から聞かれたことに答えだけを返すのではなく、一緒に考えて悩んでみる。本人が気づくまでのプロセスを伴走することが重要です。教科書にある知識をトレーニングに活かすことは簡単です。しかし自分で悩み、考えた末に練習方法を生み出すプロセスが大切です。最後の最後は自分で生み出さなければ強くなれません。
コミュニケーションをとるうえで自分の身体の向きや目線の置きどころも実は重要です。息子と話をするときレストランのような場所でお互いに向き合って座ると、問題点を指摘するときのような雰囲気になります。そうではなく、カウンターで横に座ると自分たちとは関係のない問題について一緒に考えているという空気になります。身体の向きや目線が子どもにとってプレッシャーになったり、逆に誇らしさにつながったりすることがあります。
子育てとコーチングに共通していることは、相手は相手なりに「良かれと思っている」という前提に立って、結果を待つことの大切さだと思います。
子育てに正解はありません。毎日が悩みの連続です。自分なりの言葉を意識しながらコミュニケーションの取り方を工夫していくことが、子どもを育てていくうえでも選手を育てていくうえでも大事なことだと感じています。

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