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2022年11月20日放送 小菅正夫さん(第2307回)

会場 テレビ静岡(静岡市)
講師 札幌市円山動物園参与 小菅正夫
講師紹介

1948年北海道生まれ。
北海道大学獣医学部卒業後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。
飼育係長、副園長を経て1995年園長に就任。
現在は札幌市環境局参与円山動物園担当。

第2307回「自然を守り 懐かしい未来へ」

私が子どもの頃、動物園の近くを流れる円山川にはたくさんのザリガニがいました。在来種の「ニホンザリガニ」です。いまでは数少なくなり、環境省から絶滅危惧種(Ⅱ類)に指定されています。

日本には3種類のザリガニがいます。在来種のニホンザリガニ、緊急対策外来種のアメリカザリガニ、特定外来生物のウチダザリガニです。アメリカザリガニは昭和初期にウシガエルの餌として、また大型のウチダザリガニは食用として輸入されました。

ニホンザリガニの大量絶滅は、ウチダザリガニが持ち込んだ「水カビ」が主な原因だと言われています。円山動物園は2009年からニホンザリガニの研究を始めましたが、その矢先の2015年と2016年に札幌市内の2カ所で大量絶滅が起きました。これも「水カビ」が原因ではないかと考えられました。対策を進めていく中で、水カビは水温が20度を越えると胞子を出して増えていくことがわかりました。水温の変化を見ると9月から徐々に下がって11月に入ると3度、そこから冬場は一定の水温を保ちます。3月から水温が上がり始め、夏は最高で15度。そしてニホンザリガニは水温が最も低くなった時にペアリング(交尾)を行い、水温が上がり始める直前に産卵することがわかりました。最適な飼育環境の幅が狭いため、その環境が保たれているかどうかのバロメーターといえます。

ニホンザリガニは、ゆっくりと成長し、成体になるまで5~6年かかります。また雑食で、主食として落ち葉を食べるほか、必要なたんぱく質は配合飼料で補えることがわかりました。生息環境と繁殖スケジュール、そして餌、ニホンザリガニを守り育てていくための条件はある程度、解明されました。

円山動物園の園内の森に湧き水が流れる小川を整え、ビオトープを作りました。夏でも水温が15度を越えることはありません。この場所でニホンザリガニの繁殖を試みます。

いずれは動物園の外側にある沢も、私が子どもの頃ザリガニを獲った環境に戻したいと思っています。しかしそれは、周辺の小中学校の生徒たち、そして住民のみなさん、地域が一体となって環境を守っていくことが不可欠です。本来あるべき自然の豊かさを知り、それを守るためにひとりひとりが行動する「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE」の精神。ひとりの行動が大きな力になります。そしてその環境は、私たちにとって非常に豊かで快いものになっていくのです。

身近な自然を知り、考え、行動することで、「昔懐かしい風景」を未来へとつないでいく。ザリガニが住む「懐かしい未来」がそこにあります。

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