2013年3月30日放送 小菅正夫さん(第1831回)
会場 | 赤佐小学校(浜松市) |
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講師 | 札幌市円山動物園参与 小菅正夫 |
講師紹介 | 1948年北海道生まれ。 |
会場 | 赤佐小学校(浜松市) |
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講師 | 札幌市円山動物園参与 小菅正夫 |
講師紹介 | 1948年北海道生まれ。 |
日本にはもういなくなってしまったオオカミですが、
どうも不当な差別を受けているように思います。
と言うのも、どの子どもの本を見てもオオカミの役柄は悪者です。
旭山動物園に私が入った頃、
アパートのようにピューマ、クマ、オオカミの獣舎が並んでいましたが、
子どもたちの反応を見ると、ピューマは「かっこいいな」、
クマは「わー!プーさんだ」とか。
ところがオオカミは「あ、オオカミだ。陰険そうだね」などと言われていたのです。
当時、旭山動物園には2頭の夫婦のオオカミ、ジョンとリカがいました。
そのメスのリカにがんが見つかりました。
検査するとすでに手遅れで、3度目の入院のときに体力が持たず、死んでしまいました。
するとオスのジョンは、ずっとリカの小屋の前で座り込み、動きません。
私が「待っていてももう帰ってこないよ」と話しかけても、
座り込んだまま動きませんでした。
そうして、だんだんとやせてきてしまいましたが、
検査をしてもどこも悪くありません。
食欲もなくなり、とうとう立てなくなってしまいました。
あるとき、飼育係が3日間留守をして私がその間見ることになりました。
私は「死んだら解剖して調べます」と、留守を引き受け、
点滴をしたり寝返りをさせたりして3日が過ぎました。
その間、全くジョンは息をする以外何も反応しませんでした。
ところが、3日後に飼育係が戻り、私と一緒にジョンを見に行ったとき、
その飼育係が「ジョン」と声をかけると、
ジョンは耳をピクリと動かして、前足を使って上体を起こし、
やがて「ウォーン」という声を出しそのまま息を引き取りました。
このようにオオカミは、夫婦が愛情で結ばれ、
人間とも心通わせることの出来る数少ない動物なのです。
このことがあって以来、私はオオカミを深く尊敬し、
もう一度飼ってみたいとお願いして、旭山動物園に入れてもらうことになりました。
そして、それまで動物園ではタブーとされていたオスとメスを
子どもの出産後に一緒にすることに成功しました。
そして本当のオオカミの家族愛を知ることになりました。