2010年11月13日放送 瀬戸内寂聴さん(第1713回)
会場 | 長泉町文化センター |
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講師 | 作家・僧侶 瀬戸内寂聴 |
講師紹介 | 1922年徳島県生まれ。 |
会場 | 長泉町文化センター |
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講師 | 作家・僧侶 瀬戸内寂聴 |
講師紹介 | 1922年徳島県生まれ。 |
私の母の話をしたいと思います。
母は、庄屋の娘で、当時としては当たり前ですが、
高等教育は受けていませんでした。
私が小学生の時、綴り方の授業がありました。
その時は担任が産休で代わりの若い先生でした。
作家になったくらいですから、綴り方の才能はあったと思いますが、
綴り方を提出した後、その先生に呼ばれました。
「この文章、どこから盗んできたの」と言うのです。
意味が解らず、きょとんとしていると、
さらに「あなたに書けるはずがない、新聞か雑誌から盗用したのではないか」と言うのです。
私は驚き言葉を失いました。泣きながら家に帰り、母に報告しました。
母は、すぐに割烹着を脱ぎ捨て、私の手をとり学校へ乗り込みました。
その先生を見つけ、母は「この子は生まれつき綴り方の才能があるんです。
調べもしないで、そんな事言わないで下さい」と抗議しました。
普段はおとなしい母でしたので、びっくりすると同時に感激しました。
私が本当に困っている時、母は私を助けてくれ、
守ってくれる存在だと、小学校2年の時に感じました。
そして「文章の才能がある」とはっきり言ってくれた事が、
私の自信になり、作家の道へ進む事ができたのだと思います。
小学校に入学する時は、ランドセルを買ってもらえず、
母が手作りの可愛い刺繍の手提げ袋を作ってくれました。
その時、もしかしたら家が貧しいのかなと感じました。
でも、恥ずかしいという気持ちは全くありませんでした。
父は指物職人で、一生懸命働く姿を見て育ちました。
家庭教育という改まった教育は受けていません。
必死に生きて、必死に働く両親の姿を子どもに見せる事が、私の思う家庭教育だと思います。