2021年12月 5日放送 菊地幸夫さん(第2259回)
会場 | 相良総合センターい~ら(牧之原市) |
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講師 | 弁護士 菊地幸夫 |
講師紹介 | 中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。 |
会場 | 相良総合センターい~ら(牧之原市) |
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講師 | 弁護士 菊地幸夫 |
講師紹介 | 中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。 |
10年ほど前、大学で法律の講座を持たせてもらっていました。
当時から「学生たちは自分の頭で自発的に物事を考えようとしていないのでは?」
という印象を持っていました。
例えば、答えがひとつではなく意見が割れている場合。
賛成の意見もあれば、反対の意見もあります。
そのうえで自分はどう考えるのか議論を戦わせる。これが勉強になると思います。
しかし学生たちはすぐに答えが欲しいのです。
答えが出るまでのプロセスにはまったく興味がありません。
こうした学生たちが社会に出ると、いろいろな問題に直面します。
それを自分で乗り越えて行かなくてはいけません。
自分で考えて自ら解決していかなければならないのです。
「夫婦仲がうまくいかない...。」こんな相談も寄せられます。
ある時、40代の夫から相談を受けました。
学歴、職業は立派な方です。収入にも不安はありません。
「どんな事情ですか?」と尋ねると依頼者である夫は黙ったままです。
まず口を開くのは彼の隣にいる母親。夫本人が母親に任せてしまっているのです。
比較的若い夫婦の相談に、親がついてくることは珍しいことではありません。
ただ、問題に対処しなければならないのは自分自身です。
妻と向き合うのも夫本人です。
先ほどの自分で考えない学生を含め、原因はどこにあるのでしょうか?
教育制度に課題があるのかもしれません。
あるいは、子どものために何でもやってしまっている、そんな親が多いのかもしれません。
その典型が夫婦問題を相談に来た親子です。
親は親自身の理想や、親が決めたルートに乗って
子どもにはまっすぐ歩んで欲しいと思っています。
それはまさにカーリングのストーンのようです。
理想に向かってまっすぐ、
さらに両親がほうきを持って目の前の邪魔なものを全部排除しながら...。
こうした「カーリング・ペアレンツ」が多くなっているのではないでしょうか。
非行少年の事件を担当した時のことです。
大きな問題を起こした少年グループが逮捕され、メンバーが次々と少年院に送致される中、
私が担当した少年一人が残りました。
彼は頭の回転が速い子で、僕は
「事件を反省してこれからは勉強をしなさい。きっとできるようになる...。」
繰り返し言い聞かせました。
そして彼は保護観察処分で社会に戻してもらえました。
裁判官は最後に
「君を信用しよう。社会に出て頑張りなさい。」
と言葉をかけてくれました。
彼は『信用する』という言葉をおそらく人生で初めてかけられたのだと思います。
『君はできる』という言葉もかけられたことがなかったでしょう。
何年か後に、一通の葉書が来ました。差出人は彼でした。
「お久しぶりです。
菊地先生の言った通り、僕は定時制高校に通って勉強をしました。
この春から大学生になります。立派な社会人になります。」
それを読んだとき思わず涙が出ました。
子どもは親が思うよりすごい能力を持っています。
時には失敗もします。でも一人で頑張らせて経験を積ませる。
子ども自身が自分で考えて自分で実行する。
子どもとの距離感は近すぎてもいけません。
まったく手をかけない放任も問題があります。
少し離れて見守ってあげる。そしてピンチになったら手を差し出してあげられる。
そんな距離感がいいと思います。