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2022年11月 6日放送 バイマーヤンジンさん(第2305回)

会場 テレビ静岡(静岡市)
講師 チベット声楽家 バイマーヤンジン
講師紹介

チベット・アムド地方出身。
名前はチベット語で「蓮の花にのった音楽の神様」の意味。
中国国立四川音楽大学卒業。
1994年来日後、全国でコンサートや講演を行い、
チベットの学校建設にも力を注いでいる。

第2305回「故郷・家族・学び」

チベットは秘境といわれます。私が生まれたのはその中でも貧しい村です。私は11人兄弟の9番目の子どもとして生まれました。


両親は先祖代々の遊牧民です。学校に通ったことがないので字が読めません。私の母が中国の街に出かけた時のことです。トイレの文字が読めずにまちがって男性トイレに入ってしまい恥ずかしい思いをしたそうです。「学校に通って字が読めるようになってほしい」それが母の願いであり、「勉強をして母をトイレに案内してあげたい」それが私の学びの原点でした。

家計は苦しかったものの、両親の想いと兄弟の協力もあって私は小学校、中学校に通うことができました。さらに運良くいい先生に巡り合い、高校進学を勧めてもらいました。一番近くの高校でも村から300キロ離れています。下宿生活でうれしかったことは家の手伝いから解放されたことでした。中学生までは、朝の「乳しぼり」、そして放課後の「牛の糞集め」を欠かしたことがありません。当時のチベットは電気やガスがなく牛の糞が唯一の燃料でした。

高校生活も半年が過ぎ冬休みに実家に帰った時のことです。真冬の凍てつく寒さの中、弟2人がカゴを背負って牛の糞を拾いに出かけました。私はその姿を見て胸が痛みました。「私が働くから弟たちは学校に行ってほしい」と思いました。

しかし高校に戻ってから「がんばって進学して両親や兄弟においしいものを食べさせてあげたい」と大学受験を決意しました。一生懸命に勉強しました。夜10時になると学校全体の電気が消えてしまうため、唯一明かりがついていたトイレの電球を頼りに勉強を続けました。冬のトイレは寒さが身に沁みました。


大学に合格すると村は大騒ぎになりました。村の人たちがみんなで応援してくれました。チベット出身でその大学に入ったのは、私が初めてでした。しかし大学の4年間は私の人生の中で最もつらい時期となってしまいました。何かした訳でもないのに「山から来た人」と出身地だけで差別を受けました。大学を辞めよう思ったこともありました。しかし両親や兄弟、そして村の人たち、みんなが私を支えてくれていました。「もし大学を辞めたら...」そう思うと母が泣いている顔が目に浮かびました。
どんなことがあっても大学を卒業しようと思いました。

卒業式の日、私は赤いドレスを着て卒業コンサートの舞台に立ちました。その後、部屋を訪ねてきた人がいました。その人は満面の笑顔で「チベットはすばらしい所ですね。」と言ってくれました。本当にびっくりしました。それがいまの主人です。そしてチベットをほめてくれた人が育った日本という国が知りたくなりました。
どんなに苦しいことやつらいことがあっても学び続けることができたのは、故郷の人たち、家族、みんなの想いが原動力となって私を支えてくれていたからです。

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