牧之原市の認定こども園で園児がバスに置き去りにされ死亡した事件を受け、市の検証委員会が報告書をまとめた。そこには「命を預かる業務であるという意識が薄かった」「対応が十分に誠実なものであったとは言えない」など厳しい言葉が並ぶ。

遺族の神経を逆なで　「園自体が千奈さんの人生の一部」　運営継続などを通知　園児バス置き去り死亡事件

園運営に精通していなかった“園長”

2022年9月5日。静岡県牧之原市にある川崎幼稚園で河本千奈ちゃん（当時3）が通園バスに置き去りにされ死亡した。

2021年7月に福岡県中間市で同様の事件があり、厚生労働省から安全管理の徹底について通知されていたにも関わらず、である。

事件を受け、市は有識者5人による事故検証委員会を設置。現地調査や関係者に対するヒアリングなどを基に2024年3月には報告書がまとめられた。

この中で、検証委はまず園長（当時）を断罪している。

園長は事件当日に通園バスを運転していた張本人だが、普段の園運営は副園長を中心に行われていて園管理に携わっていなかった。

だからなのか、厚労省の通知を受け取ってもなお内容の重要性や緊急性を適切に認識せず、事故の防止につながる対策を講じなかったほか、職員への周知も行っていなかったという。

また、管理者向けの安全管理研修などにも参加しておらず、園運営の基礎知識を習得していなかったことから、「園長はリーダーシップや安全管理に関する意識が薄く、知識も不十分であった」と指摘。

では、その園長がなぜハンドルを握っていたのか？

それは送迎を担っていた担当者が急きょ欠勤となったからであるが、園長は通園バスを運行する際の注意点や確認手順について承知しておらず、降車確認をせずに施錠するなど「子供の命を預かる業務であるという意識が薄かった」と糾弾した。

ただ、そもそも川崎幼稚園では通園バスを運行する上での簡単なルールを記したプリントが1枚あるだけで、そこには乗車時における出欠席のチェックは項目があるものの降車時の確認については言及がなく、置き去りにされた園児がいないかの確認や置き忘れた荷物がないかの確認は実質的に運転手や乗務員に任されていたというのが実態だそうだ。

安全管理意識の低さは園長だけでなく…

一方、園では登園管理アプリを使って午前9時までに保護者が出欠席を入力することになっていたが、千奈ちゃんを担当するクラスの職員が出欠簿を確認したのは午前9時より前のこと。

さらに、クラス担任と担任補助はいずれも千奈ちゃんが教室にいないことを認識していたにも関わらず、園内で千奈ちゃんを探したり、保護者に連絡したりという行動が一切見られず「出欠確認の連絡をしないことが常態化してしまっていた。園児の安全や成長に向き合う教育及び保育関係者としての責務を怠ったと言わざるを得ない」と斬り捨てた。

検証委では、この登園管理システムが園児1人1人の出欠席や安否を確認するという本来の目的ではなく、給食の数を把握するためだけに使用されていたとみている。

加えて、報告書によれば、川崎幼稚園では月に1回の職員会議に加え、毎朝朝礼を実施していたが、参加していたのは正規職員のみ。保育補助などの非正規職員に対してはクラス担任を通じて会議資料が渡されていたというが「情報共有が十分になされていたのかは不明」と結論付け、最後に「園長をはじめとする園責任者の事故後の対応が十分に誠実なものであったとは言えない」と結んだ。

検証委が7項目を提言するも…

その上で、全員が子供の人生における教育・保育の意義を自覚し専門性の向上に努めることや園の運営責任者がリーダーとしての役割を認識すると共に職員全体が連携して教育・保育に向かう体制の構築、安全管理に関する研修を受講し知識を更新し続けることなど7項目を提言。

しかし、これらは至って基本的なことばかりだ。

報告書の提出を受けて、千奈ちゃんの父親は「提言は当たり前のことばかりで、報告書を読んで、より再発防止に努めようと思う人がどれだけいるのか疑問に思う。娘がどんな子だったのか、事件の後に遺族はどのような気持ちを抱いていたのか、事件の悲惨さを伝えるための踏み込んだ内容も盛り込んでほしかった。逆に言えば当たり前のことや基礎・基本が安全管理のすべてであり、川崎幼稚園はそれが出来ていなかったと感じた」とのコメントを寄せたが、愛する我が子を突然失った遺族とすれば当然の思いだろう。