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次回の放送

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2024年5月 5日放送 相田一人さん(第2380回)

会場
雄踏文化センター(浜松市)
講師
相田みつを美術館館長 相田一人

講師紹介

1955年栃木県生まれ。相田みつをの長男。1996年から相田みつを美術館の館長を務める。全国各地での講演活動や執筆活動などを行う。2024年、相田みつを生誕100年を迎えた。


ポイント第2380回「逢 ~出逢い いつどこで~」

父・相田みつをは「出逢いの詩人」と呼ばれることもあり、「出逢い」というのは父にとって生涯のテーマだと言えます。節目節目に大きな出逢いがあり、父の人生がガラッと変わっています。そんな体験から、父は「出逢い」についての言葉を多く書いたのですが、一文字で出逢いを表した作品もあります。『逢』です。ここに父の「出逢い」についての思いがすべて込められていると言ってもいいのではないかと思います。

実は、父が「出逢い」という言葉を用いる場合、「出会い」の表記は一切使っていません。私は子どもの頃から父がずっと「逢」という字ばかり使っていましたから、この文字しかないのだと思い込んでいました。なぜなのか聞いておけばよかったのですが、聞く機会がありませんでした。

この『逢』と並び『タイミング』という作品もよく書いていて、「あの人に逢って話がしたい、出逢いをしたいと思っていても、タイミングというものが合わないと残念ながら本当の出逢いは起こらない」と言っていました。もしタイミングがピッタリ合ったなら、人生を根底からひっくり返すような出逢いが起こると言うのです。

父は30歳の時に「これから筆一本で生きる」と宣言しました。収入は展覧会を開き、書を売るしかありません。でも、全く売れませんでした。40代初めの頃、「書を書いて色紙にしたものを東京のデパートで売ってもらいたいが、無名の書家だし、紹介者もいないから断られるに決まっている。行くのだったら一流のデパートに行って断られてみたい」と言い出しました。冬の寒い日、色紙を風呂敷に包み日本橋のデパートに出かけました。

武者小路実篤だとか、超一流の人の色紙などを扱っている老舗デパートの美術品売り場です。みんな驚きますよね。当然最初に行ったデパートでは断られましたが、なんと、次に飛び込んだデパートで置いてもらえることになりました。全く無名の作家の異色の作品だったと思いますがなぜかけっこう売れて、当時中学生だった私は栃木県の足利市から納品に行ったものです。ガラスケースの中に父の作品があるのがなんだか不思議な気持ちがしました。

それから10年以上経ち、父が50代になった頃です。たまたまデパートで作品を見て感動した方が父を訪ねてくれて、二人は初対面にもかかわらずとても意気投合しました。原宿のアパレル関係のトップを走っていた松本瑠樹さんという方です。他にもいっぱい作品があることを知り、「この感動を自分の胸だけに収めていくのはもったいない」と思った松本さんは、ご自身で尽力して父の初めての本を作ってくださいました。

それが、おなじみの『にんげんだもの』です。父の名刺代わりというか、代名詞のような作品です。その時、父はちょうど60歳でした。この本がなかったとしたら、父は今日のように広く知られるようになったかどうかわかりません。

その巻頭に父が選んで持ってきたのが、この作品です。
『その時の出逢いが人生を根底から変えることがある よき出逢いを』

父の万感の思いがこもっている作品だと思います。

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