2019年3月17日放送 相田一人さん(第2121回)
- 会場
- 裾野市生涯学習センター(裾野市)
- 講師
- 相田みつを美術館館長 相田一人
講師紹介
1955年栃木県生まれ。相田みつをの長男。1996年から相田みつを美術館の館長を務める。全国各地での講演活動や執筆活動などを行う。2024年、相田みつを生誕100年を迎えた。
第2121回「みつをの文字力」
皆さんは、目力(めぢから)という言葉をご存じでしょうか?
「目は口ほどに物を言う」と言う様に、
どんなに優しい口調で話かけられても、目を見ると笑っていない人がいます。
目を見るとその人の本心が窺えるということです。
この目力と同じように私の父、相田みつをの「文字」には「力」があるのではないかと思い、
勝手に「文字力(もじぢから)」という言葉を使っています。
では何故、私が父の「文字」に「力」があると思うようになったのか?
父の代表作品といえば、まず頭に浮かぶのは「にんげんだもの」ではないでしょうか。
相田みつをと言えば「にんげんだもの」、「にんげんだもの」と言えば相田みつを
と言っても過言ではないと思います。私はこの作品に強烈な思い出があります。
20年以上前の事ですが、30才くらいの女性が友人と一緒に相田みつを美術館に来られました。
当時は今と違って父の事はあまり世間には知られていませんでした。
父の事を知っている友人に連れられて来たその女性は、
館内に入って作品を見るとすぐに泣き出したのです。
受付にいた私はびっくりしてその女性に「どうされたのですか?」と聞きました。
するとその女性は「書をみた瞬間に泣けてしまいました!」と言ったのです。
書の内容より「文字」だけを見て涙が出てきたそうです。
内容に感動して泣く方が多いのはわかりますが、
「文字」だけを見て泣いた人を見たのはその時が初めてでした。
ところがその後、「文字」だけを見て泣く人を何人か見たことがあります。
そこで私は、父の「文字」は、
「文字」以前に何かを人に訴える「力」があるのではないかと思うようになったのです。
父は作品を通じて自分の想いを伝えたいのです。
想いを伝えるためには見る人の心を開かせないといけません。
上手い字だと見る人は緊張してしまいますが、
父のような字だと緊張せずに心を開くのかもしれません。
見る人を身構えさせない、見る人の心を裸にする、
そんな文字なのではないかと思います。