2022年7月24日放送 竹下和男さん(第2290回)
- 会場
- テレビ静岡(静岡市)
- 講師
- 子どもが作る“弁当の日”提唱者 竹下和男
講師紹介
1949香川県生まれ。香川大学教育学部卒業。
香川県・滝宮小学校の校長在職中、2001年に
子どもひとりで作らせる"弁当の日"を始める。
実践校は全国2400校以上に広がっている。
番組で紹介した本
月刊「学校の食事」 編集発行:学校食事研究会第2290回「「弁当の日」の向こう側」
子どもが作る「弁当の日」は、献立・買い出し・調理・弁当箱詰め・片づけをすべて子どもひとりでやります。取り組みを始めて22年目、「弁当の日」は子どもの自立が大きな目的です。
私が校長を務めていた香川県の小学校は給食の食べ残しが多い学校でした。食べることは単に栄養補給だけではなく、生きることそのものだと思います。食文化が人を進化させてきました。
校長時代、生徒の中に気になる子がいました。親が忙しくてあまり構ってもらえない子です。その彼が、弁当の日にわざわざ私のところに弁当を持って来ました。そして弁当箱のふたを開けて「先生、これ」と見せてくれました。中にはちらし寿司が入っていました。普段はあまり食事を作ってくれない母親が「弁当の日」と聞いて勘違いをして作ってくれたそうです。そう言った彼は笑顔があふれていました。確かに「子どもが作る」ということにこだわれば意味がありません。しかし食事の大切さに気づくきっかけとしてとてもうれしくて心に残る「弁当の日」の思い出になりました。
不登校やひきこもり、最近ではヤングケアラーなど家庭の問題を耳にすると心が痛みます。しかしすぐに改善できる方法はありません。子どもを健やかに育む環境を整えていくために家庭の食卓が果たす役割は大きいと思います。食卓を囲む雰囲気の温かさ、食事を作ってくれる人への感謝の気持ち、そして食事のありがたさ、そんな思いを再認識するために弁当の日を続けています。
22年前に弁当の日を最初に経験した子どもたちは既に大人になっています。彼らが20歳になった時、成人式の同窓会に呼ばれました。当時を振り返って「先生、1回目の弁当の日は自分ひとりで作った子はいないと思います。でも5回目はほとんどの子が自分で作っていました」と言われました。この言葉を聞いたとき私は「してやったり」という思いでした。台所に立つことは五感を刺激します。そして子どもの成長に大きな役割を果たします。弁当の日は子どもたちが自ら成長する場になるのです。
私の父は亡くなる前に「子育て中が一番楽しかった」という言葉を遺してくれました。父の最後の言葉は私への最高の褒め言葉だと思います。私はいま日本中の子育て世代の人たちに「子育ては楽しい!」ということを言葉や表情、そして普段の生活を通して子どもたちに見せてあげて欲しいと思っています。それが子どもたちを健やかに育む環境を整えることにつながります。