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過去の放送

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2024年3月17日放送 野口健さん(第2373回)

会場
浜松市総合産業展示館(浜松市)
講師
登山家 野口健

講師紹介

1973年アメリカ生まれ。1999年エベレスト登頂に成功し、
7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。
近年は、ヒマラヤや富士山の清掃活動に加え、
被災地支援などの社会貢献活動を行っている。

番組で紹介した本

「父子で考えた『自分の道』の見つけ方」 著:野口健・野口絵子(誠文堂新光社)

ポイント第2373回「山が結んだ親子の絆」

僕には絵子という娘がいます。彼女が小学校3年生くらいの時、初めての登山で冬の八ヶ岳に連れて行きました。

麓の民宿に宿泊し翌朝出ようとするとすごく吹雪いていて、登山口で気温が氷点下17度。山頂まで行くのは無理だと思いましたが、出発してすぐの樹林帯を抜けると山小屋があるので、そこまで行こうと決めました。そのことは娘には内緒にして地吹雪の中を登っていくと、「指が痛い」と訴えます。「痛いと感じるのは神経が生きているからだ。痛いのはオッケーだよ」と言うと、途中からは僕に言うのは諦め、神様に祈り始めました。「お父さんは40年も生きている。でも絵子には明日が来ないかも、今夜も来ないかも」などと言ってメソメソ泣いています。

なんとか樹林帯を抜けて山小屋に着き、娘に「今日はここまで」と言うと、「どうして?」と聞いてきます。「『無理』という言葉があるよね。お父さんの中では『8の字』のように見える。下の丸はしていい無理で、その上にはしてはいけない無理がある。何かを成し遂げるためには、最大限無理しないと結果は出ないけれど、してはいけない無理の世界に入ると、山では死ぬのは簡単だから、今日はもう下りるんだ」と言っても、当時は小学生ですからよくわからないですよね。「ああ、生きて帰れる」と喜んでいました。

「これはもう山に行きたいと言わないだろうな」と思っていたのですが、娘は登りたいと言ったので、そこからトレーニングを積みながら一緒にいろんな山に登り続けています。

彼女が小さい時は内気であまり喋らず、僕が帰るとすぐに母親の後ろに隠れるような子だったのですが、ある時僕のことを「もうお父さんではなくて、『戦友』になった」と言ったのです。「今まではお父さんは私のことを助けてきたけど、これからは私がお父さんを助ける側にきっと回る」と。偉そうですが、ただ、お互い1本のロープで命を賭けているというところで「戦友」という意識を持つわけです。父親と年頃の娘の関係は、なかなか難しいと聞きますが、娘が包み隠さず自分の弱みも全部話すので、「実は僕もこんなことで最近落ち込んでいて」というようなことをお互いにすごく喋ります。

どこまでがしていい無理、どこから先がしてはいけない無理かというのは、どの世界でも人生でも当てはまる話だと思うのですが、山はそこを突きつけられます。娘にはピタッと感性に響いたんだと思うんです。山登りは、自己判断力や、生き抜く力、人間として生きていくための力を本当に養えます。

「おそらく何年か後には一緒にエベレストに登っていることになっているのだろうな」などと想像しつつ、これからも娘と共に冒険をしていきたいと思っています。

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